今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第6話] 「利益の蛇口」を経営者の意思で開放していく

売上と利益をコントロール可能にする

先日、ある集まりでお知り合いの経営者をお見かけしたので、少しの間雑談をしました。その時のやり取りです。

「社長の会社の事業は、最近いかがですか?」と私がお聞きしたところ、その社長から返ってきたの「なかなかパッとしませんね。できる限りの手は打っているのですが…」といった内容でした。私はこのお返事をお聞きした時、何となく違和感を感じました。

「できる限り」の意味とは何だろう?

「手を打っている」と仰っているけれど、その打ち手の目的は明確にされているのだろうか?

「打ち手の効果」はどれだけ把握されているのだろうか?

いくつもの「はてなマーク」が頭に浮かんできました。

御存知の通り、事業とは、市場に潜んでいる見込み客を探し出して、そこに自社の商品を売り込み、気に入って頂き、買って頂いて、初めて売上が上がり、利益がもたらされます。

もう少し具体的に、その流れを業務プロセスを例にとって表現すると、「見込み客の発掘 → 見込み客へのアポ取り → 商談 → 見積り → 受注 → 製造 → 出荷納品 → 売上計上・利益増加 → アフターフォロー」といったイメージです。

一目瞭然ですが、それぞれの業務プロセスは、前プロセスの影響を受けますし、次プロセスに影響を与えます。つまり、各プロセスが最適な結果を出すことが、最終的な売上計上・利益増加をもたらすのです。別の表現をするのであれば、各プロセスは最終的な売上や利益に影響を与えているのです。

つまり、収益性の高い事業について、さらに集中的に収益性を高めることを経営判断として意思決定したのであれば、各プロセスを意図的に強化して、売上・利益をさらに増やすことができます。

逆に、収益性の低い事業についてテコ入れすることを意思決定したのであれば、収益性低迷の原因となっているプロセスを峻別して、そこを集中的に強化して、修正を回復させることもできるのです。場合によっては撤退も断行します。

この状況を水道の蛇口に例えて、各プロセスを「利益の蛇口」と呼ぶとした場合、この「利益の蛇口」を、経営者が意識的に開けることができれば、会社経営をコントロールすることに繋がっていきます。

例えば、上記業務プロセスのうち、「商談」まで順調に進み、見込み客から「見積り依頼」をされたとします。ここで営業担当が「見積り提出」を迅速に行わなかったり、迅速に提出したとしても、先方のニーズを正確に読み取れないまま提出した場合、次の「受注」プロセスにマイナス影響が及ぶことは誰の目にも明らかです。その結果、残念ながら会社全体の受注率は、間違いなく下がります。

「商談で商品説明もしっかりできて、見込み客の反応も良かったにも関わらず、なぜか見積り提出した後の受注に繋がらない」というケースがもしあるとしたら、「この見積りプロセスに問題が潜んでいるという仮説を立てて、担当者の動きをチェックしていく」ことが必要になります。

これが正に「最適な打ち手を打つ」ということです。打ち手のターゲットを絞ることができれば、その目的も明確になり、打ち手の効果も測定することができます。

冒頭に紹介した経営者の方は、「出来る限りの手は打っているのですが、なかなかパッとしないんですよね。」とコメントされていましたが、仮に業務プロセスを細分化し、次プロセスに対する影響を掴んだ上で、打ち手を打っていれば、次のようなコメントに変わっていたのではないでしょうか。

「ウチは商談後の見積り提出が迅速でなかったり、また、そうでなくても見込み客のニーズを的確に把握できていなかったりで、そのことが受注率低迷の原因になっている可能性が高いのです。そこで、現在、営業部全体で、商談からいかに受注に結び付く見積りを提示していくかを集中的に検討させているところです。なんらかのヒントが見えてくるのを期待しています。」

今後、経営者として、自社の見積りプロセスの巧拙を把握して打ち手を打っていくのであれば、「利益の蛇口」を開くことに繋がり、売上増加・利益増加に大きく貢献していくことでしょう。

以上、具体例として、見積りプロセスが収益性低迷の要因になっているケースをしましたが、他の業務プロセスも同様です。

そのプロセスの巧拙が次プロセスにどのような影響を与えているのか把握できていれば、「利益の蛇口」を大きく開くためのプロセスがどのプロセスで、そこにどういった打ち手を打っていけばよいのか、仮説検証することを継続することにより、事業全体の収益性が上がり、会社に利益が残るようになっていきます。

あなたは経営者として、「利益の蛇口」を開くことを行っていますか?