以前、当社の個別相談を受けられた中古車販売を営んでいる経営者と先日お会いする機会があり、近況報告を受けました。
その会社は年商1億に満たない規模ですが、フットワークがとても良く、小回りが利くので、得意先の評判もとても良く、経営もある程度順調に推移していました。
ところが、ここ数年来、大手中古販売会社がその豊富な資金力を背景にした、なりふり構わない低価格攻勢の影響をもろに受けて、昨年頃から売上が激減するという状況に陥りました。その頃を境に業績も赤字に転落したのです。当社の個別相談に見えられたのも、ちょうどその頃でした。
それから半年余り経った頃、経営者の集まりで久々にお会いしたので、差し支えのない範囲で、その後の状況をお聞きしました。
その経営者曰く、「本業とは異なりますが、以前から細々と取り扱ってきた商材が、最近大当たりしました。その結果、大口注文が立て続けに舞い込んできて、業績は急速に回復しつつあります。いわば、V字回復です。」
私はこれをお聞きした時、業績回復という状況は喜ばしいこととはいえ、単純に手放しでは喜べませんでした。
それは、「今回の業績回復の原因を把握しているのだろうか?」、「本業以外で発生した今回の特需が、今後再び起きる可能性があるか否かの検証をしているのだろうか?」、「本業の中古車販売の今後の方向性を検討しているのだろうか?」といった幾つかの懸念事項が脳裏をよぎったためです。
世の中の企業で、規模の大小を問わず、業績のV字回復を遂げる企業は数多くあります。そのきっかけとして、「業績低迷以降、戦略的に打ち続けていた打ち手の効果が発揮されてきたケース」、「業績低迷以降、特に打ち手を打つこともなく、手をこまねいていたにもかかわらず、突然神風が吹くように、特需的に売上が増えるケース」があります。
前者は、業績低迷を所与の現象として捉えて、「なぜ低迷に陥ったのか?」、「自社の戦略のどの点がマーケットに受け入れられなかったのか?」、「現況を打破するために次に打つべき戦略は何か?」といった『仮説と検証』、つまり、PDCAを回すことに経営者としての全エネルギーを注いで、ようやくマーケットの評価を得て、売上を回復したというケースです。
一方、後者は、業績低迷を所与の現象として捉えるまでは同じですが、特に『仮説と検証』を繰り返すこともなく、たまたま起きた想定外の現象がきっかけとなり、売上が回復したというケースです。
経営者として最もリスクを感じるべきは、後者のケースです。業績がV字回復したのに、なぜリスクなのか?という声が聴こえてきそうですが、このケースは正にリスクそのもので、会社にとって時限爆弾を抱えているような状態なのです。
なぜなら、「業績悪化を招いた要因も分からない、業績回復に至った要因も分からない」という具合に、分からないだらけの中で会社を動かしていることに、経営者としての機能が果たされていないからです。そこには、またいつ売上が落ち込むやも知れない恐怖しか存在しません。
これはもはや、経営とは呼べません。大荒れの海の上できりもみ状態になっている小舟のようなものです。
経営者であれば、誰しもこのような状況に陥りたくないはずです。そのためには、会社の損益を商品単位・顧客単位で見える化し、赤字・黒字の真因を深掘りすることにより、赤字商品・赤字顧客がもたらす隠れた赤字を撲滅し、伸ばせば大きく儲かる黒字商品・黒字顧客がさらに伸ばして完全黒字化することが最優先です。さらに、事業構造を組み替えて、高収益事業を作り上げていくのです。
以上の一連の流れを、仕組みを通して粛々と実行していくのです。
これができる企業は、不況が来ようと怯えることもなく、好況が来ようと浮足立つこともありません。なぜなら、悪くても良くても、その要因と今後の打ち手を明確に把握できているからです。
当社は、この一連の仕組みの必要性を、終始一貫して提唱しており、御要望があれば、限られた期間での仕組みづくりをコミットしています。
冒頭に紹介した、中古車販売業の経営者にお聞きしたところ、V字回復の要因も把握されていましたし、本業の中古車販売の低迷原因と、今後打つべき打ち手もある程度明確に描いているとのことでした。
したがって、「分からない」だらけの状態ではないので、現状に浮足立つこともなく、今回のV字回復を機に、さらに経営を伸ばしていかれるでしょう。そのことを願ってやみません。
あなたは、業績が好不況に関係なく、なぜそうなったのかの原因分析を行い、将来に向けて、高収益事業を作り上げていく高い視点を持っていますか?