よく、中小企業の経営者の方々と会ってお話しする機会がありますが、先日お会いした経営者が、次のようなことを仰っていました。
「村上さん、今、自分のビジネスに関連するとかしないとかに関わらず、いろんなことを勉強するのが楽しくて、時間を作っては、あちこちのセミナーに出掛けているんですよ。」
私はこれをお聞きした時、つい「この経営者の会社の社員は、成長できているだろうか?」ということを思い浮かべざるを得ませんでした。
「学ぶ」という切り口で、経営者の特性を考えてみた場合、二つのパターンに分かれます。
一つは、先ず、経営者自らが知識を得ようとして、本を読んだり、セミナーに参加するパターンです。
もう一つは、社員にその目的や必要性を理解させた上で、本を読ませたり、セミナーに参加させるパターンです。
前回、このコラムで、「真の社員教育の場として、現場に勝るものはない」とお伝えしましたが、今回の内容は、前回とは異なる観点からの提言なので、どうか混同されないようにお読みください。
さて、話を戻しますが、要は、「学ぶ」という切り口で経営者を分けると、「先ず経営者自らが学ぼうとするパターン」と「最優先で社員に学ばせようとするパターン」の二つに分かれるということです。
前者のパターンに該当する経営者は、よく本も読んでいますし、何よりも、さまざまなセミナーに参加されています。中には本業とは全く接点がないようなセミナーに参加されているケースも、多々お見受けします。
そこまで行くと、もはや「雑学」の域に入り、「勉強」というより、むしろ「お勉強」と言わざるを得ません。これが個人であれば、何を学ぼうと自由なので、問題になりようがないのですが、こと経営者となると、そういう訳にはいきません。
そもそも「学び」の本来的な趣旨は、自分が描く夢やビジョンを実現に近づけていくために、今この時点で自分に足りていない部分を補完することであり、本やセミナーはそのための手段に過ぎません。
しかし、このパターンに該当する経営者は、いつの間にか、手段が目的にすり替わっているようです。言い換えると、個人的な知識欲の充足欲求を優先しているのです。
経営者として、エネルギーを投入しなければならない重要事項として、事業戦略構想、そのための戦術構築、マーケティング、取引先との関係性強化、社内の仕組み強化、社員の人心掌握などなど、やるべき事は挙げたらキリがありません。にもかかわらず、それらに直結しない物事に、貴重な時間とエネルギーを消費しているのです。
百歩譲って、学ぶテーマが本業に直結しているとしても、それを先ず経営者が学ぶということは、どうなのでしょうか?
明らかに言えるのは、「経営者自らが、社員の学ぶ機会を奪っている」ということです。ちなみに、冒頭に紹介した経営者の方は、こちらのパターンに属しておられるようです。
経営者が率先垂範で学び、それを会社に持ち帰り、社員に伝えるのであれば問題ないのではないか、という声が聴こえてきそうです。そうだとしても、経営者として、やるべき事が山積みの状況下で、それらを後回しにできる理由は見当たりません。
セミナーについていうならば、経営者が参加するのではなく、たとえば、会社の各業務に関連性のあるテーマ毎に、担当者を指名した上でセミナーに参加させて、その担当者に後日スピーカーとして社内で勉強会を主催させる。つまり、「学んだことを、改めて社内に伝えさせる」のです。
このことは当人にとって、他に替え難い素晴らしい訓練となります。
このように、社員に対して、最優先に学ぶ機会を与えることは、様々な意味で彼らを成長させることになります。社歴に関わらず、こうした場数を踏ませることにより、彼らの習得能力や伝達能力は着実に向上し、ひいては、会社全体の底力の強化に繋がっていくのです。
学びの主役を、経営者ではなく、社員が果たす方が、はるかに大きな価値をもたらすのです。
つまり、先ほど挙げた二つのパターンのうち、「最優先で社員に学ばせようとするパターン」の経営者こそが、社員をより成長させ、会社をより発展させていくため、将来的な会社の伸びしろは大きいといえるのです。
あなたは、会社の将来発展のために、社員に対して学ぶ機会を最優先で与えていますか?(ご自身の知識欲を満たすことに重点を置いていませんか?)