今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第8話] 経営の見える化に手を出してはいけない

 

覚悟のある経営者は、必然的に

先日参加させて頂いた異業種交流会での一コマです。

お知り合いの経営者の方をお見かけしたので、声掛けさせていただき、互いの近況報告をさせていただきました。そのやり取りの中で彼は、「最近、自分の会社が見えてないんですよね。」と仰っていました。彼は日頃から、会社の経営見える化を心掛けておられる経営者です。

私はさっそく、「と言いますと、社長にとって見たいのに見えていない状況とは何ですか?」とお聞きしましたが、ご本人は「うーん・・・、なかなかうまく言えませんね。」といった具合に言葉に詰まっておられました。

経営見える化の仕組みの有無に関わらず、自社の経営状態がどうなっているのかについて、常に把握を行い、その時々での最適な打ち手を打っていき、軌道修正を仕掛けていくのが、経営トップが果たすべき役割です。(もちろん、仕組みがなければこの流れは成り立たず、経験と勘に依存した経営になってしまうことは言うまでもありません)

しかし、経営トップとして何を見たいのか、それを即座に言語化できないということは、まだまだ経営の見える化に対する向き合い方が十分でないというところでしょうか。

この経営者の方を責めるわけではありませんが、以下に述べるように、世の中の風潮として、多くの企業の経営見える化に対する取り組み方が、中途半端という印象が拭えません。

企業経営に関する流行りのワードとして、「見える化」があります。確かに「ウチは今、経営見える化に取り組んでいて云々」と周囲に話ができたらそれなりに「経営をやっている」的な恰好を見せられるとお思いの経営者の方もいらっしゃるかも知れません。

そうした場合によくあるケースが、「見える化をしたいが、何を見える化させたらいいのかターゲットがハッキリしていない」とか、「見える化できた後の対応まで考えていないため、見える化することがゴールになってしまっている」といった、お世辞にも見える化とは言えない状態にも関わらず、「ウチは経営見える化をちゃんと導入している」と錯覚してしまっているケースです。

つまり、「経営の見える化」に取り組んでいるそのこと自体に、経営者として自己満足しているかのような風潮を感じる時があります。しかし、そのような中途半端な気持ちで、経営の見える化をやろうとするのであれば、敢えて言いますが、やらない方がまだマシです。

中途半端な経営見える化の最たる弊害として2つあります。

一つに、何のポリシーも不在の状態で取り組む経営見える化は、仕組みづくりの段階から社員の負荷をいたずらに増やすだけで、社内を大混乱に陥れるだけで、百害あって一利なしと言えます。

一つに、何のために経営見える化をするのか、その理由と目的を明確にしないで仕組みを構築してしまうと、運用開始後は見える化そのものが目的になってしまい、見える化された情報を使ってどう打ち手に結び付けていくのか、まで繋がっていかないのです。これでは、見える化することが単なる自己満足になるだけで、時間とお金を無駄にするだけです。

中途半端な経営見える化をすることは、これだけ危険なことだと言えるのです。

では、経営者にとっての本来あるべき「経営見える化」とは、一体何でしょうか?

それはずばり、「経営者としてのブレない経営判断を可能にする判断材料を、必要な時に必要な形で見えるようにすること」です。

たとえば、顧客別利益を粗利益レベルにとどまらず、営業利益レベルで把握している企業の場合、営業利益率が高いので、さらに深掘りした営業を仕掛けるべきだとか、逆に、この顧客は粗利率はプラスだが営業利益率はマイナスなので、取引品目を高利益率の商品に徐々に入れ替えていく提案をしていく、それが難しければ、値上げ要請や取引量を減少していく、といった顧客の状況によって実に様々な営業戦略を展開していくことができるのです。

そして、その戦略の効果も測定していくこともできるのです。以上の流れを最小限の人手とコストで仕組みとして回していくのです。

以上、営業面のほんの一部を御紹介しただけですが、こういった見える化が企業の業務プロセスの至るところで回っている状況が、まさに経営の見える化ができているということなのです。

また、経営見える化の先には、経営者としての溢れんばかりの危機意識と問題意識が伴っていて然るべきです。これに正面から向き合っていく社内インフラが経営見える化の仕組みそのものなのです。

また、見える化の仕組みを回していく中で、社員の多くが関わっていきますので、経営の一端を担うことを自らの担当業務を通じて体験していき、自分が属する会社のビジネスがどのように回っているのか肌感覚で知ることができるので、最高の社員教育にもなるのです。

あなたが経営の見える化をしているのは、周囲からどう見られたいか、ではなく、経営者としての危機意識と向き合うためですか?