今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第9話] 経営者は粗利益を見てはいけない

俯瞰できる経営者は、他とは異なる風景を

先日、ある集まりで、お知り合いの経営者にお会いした時の一幕です。

彼は私を見つけるやいなや駆け寄って来て、「村上さん、うちの会社も経営の見える化がようやく軌道に乗ってきたようです。今まで会社単位でしか見ていなかった粗利益が商品単位で見れるようになり、その報告が毎月出てくるようになったのです。やれやれと言った感じですよ。」と仰いました。

私はその言葉を聞いた時に、口には出しませんでしたが、「彼は、まだ道半ばだという認識はおありなのだろうか?」という危惧がふと頭をよぎりました。

なぜなら、会社の経営状態を見える化しようとした場合、商品単位で粗利益を見える化した程度ではとても推し測れるものではないからです。もちろん、粗利益を会社単位でしか見れていない企業と比べたら、一歩先んじていると言えますが、ここで気を抜いては絶対にダメなのです。

この経営者の方は、起業される前は大手メーカーの中間管理職をやられていた方であり、営業・経営管理・人事・総務と、企業経営に必要な領域は一通り経験してきた方です。

つまり、経営者の中でも非常に数字に強い部類に入る方です。それだけ数字に強い方でも、粗利益レベルでの経営見える化でひとまずOKという感覚を持たれているのです。

ここに、現在、多くの中小企業が伸び悩んでいる根本的原因を垣間見たような気がしました。

会社単位での粗利益は黒字で当たり前です。もし赤字ならば、その会社は存続不可能であることは明らかです。また、商品単位での粗利益が黒字(これも当然ですが)でも、仮に赤字の場合は、売価値上げ戦略や廃止検討をする必要が出てきます。

実は、多くの会社がここまで見える化した段階で、ホッと安堵して、手綱を緩めてしまうのです。実に、勿体ないことです。

さらに言うと、粗利益を商品単位に見える化できず、会社単位でしか見えていない場合、業績不振の原因を「外部環境が悪化したから」とか、「競合が近隣に進出したから」とか、「顧客の値下げ要求が厳しいから」といった感覚的な言い訳(このレベルだともはや原因分析とは程遠く、言い訳としか聞こえません)でお茶を濁したまま、経営会議を終わらせている中小企業がほとんどです。

こうした状況は論外としても、先の経営者のように、粗利益を商品単位で見える化したとしても、実はまだまだ不十分なのです。

つまり、企業経営には維持管理コストが不可欠で、例えば、給料、家賃、水道光熱費、教育研修費、交際費、消耗品費などなどがあります。粗利益でこれら維持管理コストを回収した残りが営業利益であり、粗利益の段階ではまずまずの黒字なのに、営業利益の段階になると、一気に赤字転落、もしくは僅かの黒字という企業が非常に多く見受けられます。

なぜでしょうか?

世の大半の中小企業が、営業利益を商品単位で見える化できず、その結果を打ち手に反映することができていないためです。

もう少し具体的に言います。

家電商品全般を製造販売する中堅規模の会社を想定してください。 この会社はかつては白物家電の分野で大手に対抗していましたが、今は白物家電市場全体が飽和状態であり、小売価格も値崩れを起こしていて、メーカーとしては粗利も縮小傾向にあります。

この会社に、商品単位で営業利益を見える化する仕組みがあれば、「営業マンの訪問頻度」、「広告宣伝費の予算枠」などを見極めていき、最終的には、市場撤退するか否かを経営者として判断していくことができます。

逆もまた然りで、商品単位で営業利益を見える化する仕組みがなければ、現状を踏まえない営業戦略やマーケティング戦略しか採りえず、不毛な戦いを続けるだけです。結果として、赤字を広げるだけ、しかもその赤字は会社単位の利益に埋もれているので、その事実にも気付かず、業績を更に低迷させていくだけなのです。

営業利益を商品単位で見える化できていないと、実は売れば売るほど赤字が広がっていることすら気付かないので、対策を打つこと意識も向きません。また、伸ばし切れていない黒字にも気付かず、大きく儲けるチャンスを逃していることにすら気付きません。

逆もまた然りで、営業利益を商品単位で見える化できると、隠れた赤字を撲滅し、伸ばし切れていない黒字を完全黒字化することが可能となります。つまり、利益に対するプラス効果がダブルで実現できるのです。

商品単位での損益の見える化を粗利益レベルにとどまらず、営業利益レベルにまで深掘りする仕組みづくりは一朝一夕にできるものではありせん。

しかし、それに要する期間は限定的です。ひとたび仕組みが出来上がり回り始めれば、その恩恵を永続的に享受していけるのです。

あなたは、経営者としてのエネルギーを目先の物事のために使いますか、それとも、永続的な成長のために使いますか?