今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第19話] 財務的基盤の追求はジリ貧を招く!

知り合いの経営者の方々とお話をする際に、話題が運転資金に及ぶことがあります。「自分の会社は最近売上が厳しいので、3~6か月の運転資金くらいは確保していないと、本当に厳しい状況になりかねないです。」とかいったお話が、あちらこちらから聞こえてきます。

運転資金と聞くと、常に資金繰りに頭を悩ませている中小企業を思い浮かべますが、大企業も例外ではなく、会社を存続させるうえで避けては通れない重要な要素です。中小企業が金融機関に運転資金融資を申請する場合、その金額は業種にもよりますが、月次粗利額の3~6カ月とかがよく見受けられる規模です。

大企業の場合、資金残高として月次粗利額の12カ月以上を保有しているケースも多々見受けられます。

現に、企業規模の大小を問わず、資金残高を不測の事態に備えて、できる限り厚めに保有しておこうとする経営姿勢は、今の時代において例外なき大原則の如く認識されています。この厚めの資金残高を志向する傾向は、今後ますます拍車がかかっていくことは明らかです。

世の中にゴマンといる財務コンサルタントもこぞって財務的基盤を厚めに持つことを声高に推奨しています。

しかし、それがすべてではありません。財務的基盤だけを追求すると、いずれはジリ貧を招くのです。その事をこれからお伝えしていきます。

運転資金とは、極論を言いますと、売上がパッタリ止まった場合、社員給料や事務所家賃といった毎月必ず支払わなければならない経費をすべてカバーできる規模の資金です。

「売上がパッタリ止まる」などということは、経営者であれば誰しも考えたくないことですが、可能性としてゼロでない事態を常に想定しておくのが、経営者の役割です。そのリスク思考の延長線上に資金残高をできるだけ厚くして、財務的基盤をできる限り強固にするための戦略をいろいろと考える訳です。

たとえば、半年間や一年間、売上がゼロだったとしても、廃業せずにしのげるくらいの資金残高を持つことを考えるのです。

資金がショートしたら事業存続そのものができなくなる訳なので、一定規模の資金を常に確保しておきたいという経営者の思考は絶対に必要です。ここで言いたい事は、こうした思考の根底には、「お金を増やそう」という意思とは真逆の「お金を減らしたくない」という守りに偏重した意思が横たわっているということです。

この守り偏重の経営姿勢は、チャレンジをできる限り避けようとする企業行動に繋がるため、良くても業績は現状維持、悪ければ現状維持どころか業績低迷に結び付いていきます。

昨今の環境激変の時代においては、攻めの経営こそが結果的に守るべきものを守れるのです。逆に、守りの経営に軸足を置くと、微かな逆風でもまともに影響を受けてしまうのです。

この守り偏重の経営姿勢が、最も端的に現れるのが設備投資です。金融機関から設備投資資金を調達できるとしても、借入返済を上回る投資リターンを常に得られるかどうかの「不確実性」を経営者としてどう捉えるのか、がとても重要になってきます。

なぜなら、借入返済は既に確定した資金減少でありますが、投資リターンは未確定の資金増加だからです。

したがって、経営姿勢が攻めか守りかで、この不確実性の捉え方が180度異なってきます。攻めの姿勢があれば、積極果敢に不確実性に挑戦していきます。一方、守りの姿勢であれば失敗する可能性を必要以上に並べ立てて、不確実性から逃れようとします。

設備投資計画の策定に精緻さが必要なのは大前提ですが、守りの経営姿勢が根底にあると、設備投資も過度に慎重になりがちです。結果的に設備投資に躊躇して、千載一遇の儲けるチャンスを逸することになりかねないのです。

守りの経営姿勢でなければ財務的基盤を強くできない、という理屈はどこにも存在しないのです。むしろ、財務的基盤に固執した守り偏重の経営こそが、企業をジリ貧に追い込む要因になり得るのではないでしょうか?

現在のように企業を取り巻く環境変化が予測不能で、何が起きるか予想もつかない時代にあっては、攻めの経営姿勢こそが生き残るための基本姿勢であり、攻め続ける過程で新たな余剰資金が生まれ、結果的に財務的基盤も強固になっていくのです。

経営者が守りの経営にフォーカスしていると、たとえ利益が増えても、その結果、増えた資金をひたすら「貯蔵」します。一方、攻めの経営にフォーカスしていると、利益が増えて資金が増えても、一時的には貯蔵するものの、やがてチャンスが訪れた際に、満を持して弓矢を解き放つように、その資金を会社の成長のために積極果敢に「活かす」のです。

このように、財務的基盤強化に偏重した経営を続けていくと、いずれはジリ貧の状況を招きます。逆もまた然りで、会社の成長を最重要課題に掲げて経営を続けていくと、成長を手に入れるのと呼応して、結果的に強固な財務的基盤も手に入れることができるのです。

あなたは、この激動の時代に、攻め・守り、どちらにフォーカスして経営をしていきますか?