今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第20話] スクラップアンドビルドを決断した時点で、経営者の負け

先日、東証一部に上場している大手ラーメンチェーンが全店舗の1割に相当する50店舗を閉鎖するとの報道がありました。閉鎖理由としては二つあり、「人材不足による人件費高騰」と「原材料の値上がり」とのことでした。

この報道を見た時、紹介されていた二つの閉鎖理由が、今回の閉鎖店舗に固有の理由にはとても思えず、なぜこの理由が閉鎖に追い込まれた50店舗固有の理由になるのだろうか?、との印象を拭えませんでした。

事の真偽を究明するのが本コラムの趣旨ではないため、この点は脇に置くとします。いずれにしても、経営陣としては、店舗閉鎖を回避するためにあらゆる手を講じたものの、「赤字タレ流しを食い止めるためには、店舗閉鎖以外に選択肢はない」という判断に至った訳で、まさに「万策尽きた状態」であったことは容易に推測できます。

スクラップアンドビルドという言葉は、何も今回のような店舗閉鎖に限らず、それが用いられる局面で様々な意味を持ちます。分かり易い表現をするならば「現状を壊して、新たなモノを創り出す」という意味で、目的は、行き詰った現状を打破することにあります。

企業経営においてスクラップアンドビルドという言葉が使われる典型例として、飲食業や小売業などを営む企業が拠点展開している中での、一部の拠点が不採算に陥り、それが将来的に挽回できないという予測に至った際に、不採算拠点を閉鎖(スクラップ)し、新たな拠点を作る(ビルド)ケースが挙げられます。まさに今回ご紹介したようなケースです。

その場合、スクラップアンドビルドがなければ発生しなかったコスト負担が必ず存在します。それも場合によってはかなりのコスト負担になります。ですから、経営者であれば、敢えて戦略的にスクラップアンドビルドを実施する場合を除いては、通常であれば、あらゆる仮説と検証を積み重ねて、回避するための手を打っていくのです。

たとえば、ある拠点が他の拠点と比べて業績不振に陥った場合、経営者として採るべき行動は、その拠点固有の原因を見つけ出すことです。同じ原因が他の拠点でも潜在的に抱えている可能性が大きいからです。業績不振が横展開する事態を防ぐのは当然のことです。

「立地が人の動線から通り一本外れていたことが、見込み客を引き付けることの障害になっていなかったか?」とか、「全拠点での接客レベルの均一化が図られていない中、接客レベルの低さが、リピート率低迷の原因になっていなかったか?」とか、「来店客のクレーム対応について、各拠点責任者に一任したまま、本社でそのフォローをしてこないことが顧客満足度のブレーキになっていなかったか?」等々といった仮説を立てるのです。

業績不振に陥っている拠点なので、時間をかけてじっくり改善に取り組むなどという悠長なことは言っていられないのが実態です。赤字タレ流しの状況を一刻も早く食い止めるために、撤退か否かの経営判断を迫られるカウントダウンが進む中で、仮説と検証をスピーディーに繰り返していくだけなのです。

冒頭に紹介した大手ラーメンチェーンのような面展開で商圏を押さえていくことが主戦略の業態であれば、経営者としては、先ず売上不振という「結果」を招いた「原因」を探り出します。

つまり、現場責任者である店長だけにとどまらず、店舗管理部、購買部、営業部、を総動員して、どこの業務プロセスに売上不振を招いた原因が生じていたのかを探っていきます。

その検討結果を概念的な言語化にとどめているだけでは、経営判断には全く役に立たないので、経理部を巻き込んで、経営判断に耐えうる数値化を行うのです。

こうした企業内のあらゆる業務プロセスを総ざらいすることにより、売上不振の原因、無駄なコストの原因を探り出し、最終利益を増やしていくための道筋を付けていく、もちろんこれも仮説と検証の繰り返しです。

ここで、いくら改善の可能性のある打ち手が見つかったとしても、赤字タレ流しを一刻も早く食い止めるという、時間との勝負が懸かっている中、スピード感にも耐えうる打ち手でなければ意味はありません。その場合、最終的に「万策尽きた状態」になり、経営者の判断として、スクラップアンドビルドに踏み切るのです。

しかし、そもそも論に立ち返った場合、損益を拠点単位ではなく、さらに深掘りした形で、各拠点で販売している商品・サービス単位で見える化する仕組みを構築していれば、「赤字商品の兆候が見えた時点で、深刻な赤字商品に陥るのを未然に防ぐ手を打つ」とか、「今一つ伸ばし切れていない黒字商品が見えた時点で、強力な黒字商品に変貌するための手を打つ」ことが、仕組みの中で先回りして手を打てるのです。

その結果、スクラップアンドビルドといった不本意な事態に至るリスクを限りなく減らしていくことが可能となるのです。

つまり、厳しい言い方ですが、スクラップアンドビルドを余儀なくされること自体、経営者の負けなのです。

視点の高い経営者は、逆風が何も起きていない段階から、悲観的に不測の事態を想定し、仕組みづくりを進めるものです。逆もまた然りで、視点の低い経営者は、逆風が何も起きていない段階では楽観的に構えていて、不測の事態が起きてから対策を見つけようとするので、時すでに遅しで、いとも簡単に万策尽きた状態に陥ります。

あなたは、順風満帆だからこそ、悲観的に経営を進めていきますか?

それとも、順風満帆な一時期を謳歌したまま、楽観的に経営を進めていきますか?