今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第18話] 世襲経営者に求められる基本姿勢とは

先日、当社の個別相談を受けに見えられた若手経営者から、次のような質問を受けました。

 「村上さん、当社のような代々続く会社を引き継ぐのは、いざ実際にやってみると想像以上に大変です。何から手を付けていいのか分からないというのが、正直なところですね。どんな事に気を付けていけばいいのでしょうか?」

 この方の会社は、老舗の和菓子製造販売をやっていて、現在三代目とのことです。創業当時は和菓子一辺倒だったかも知れませんが、最近は、時代の流れもあり、和菓子だけにとどまらず、和の文化を加味した洋菓子も取り扱っています。

 私は、先の相談を持ち掛けられた際に、敢えて処方箋は示しませんでした。三代の長きに亘り、代々紡がれてきた事業を承継するにあたっての要諦など、Q&Aを紐解くように出てくるほど、単純なことではないからです。

 さて、上場企業の場合、一部にしか残っていない世襲経営ですが、中小企業においては、9割以上が該当すると言われています。その是非については、ここでは言及しませんが、言いたいことは、世の中の中小企業経営者の多くが、親から事業を引き継ぐという事実と向き合っているということです。

 事業を引き渡した親にとっても、事業を引き受けた子にとっても、これからどうなるだろうか、という得体の知れない不安や恐怖を感じるものです。

 そういった状況下で、新人経営者としてやるべきことは、山のようにあります。事業全体の把握、既存取引先との関係性再構築、新規顧客の開拓、新規商品の開発、社員の掌握等々、枚挙にいとまがありません。

 このようにやるべき具体的課題は数多くありますが、その大前提として、求められる基本姿勢があります。

 それは、「先代経営者の真似をしない」ということです。

 仮に先代経営者と同じようなやり方で、先に掲げた個々の事項に取り組んだとしても、失敗はしないでしょう。なぜなら、先代経営者はそのやり方で、事業を今まで育て上げてきたからです。

 しかし、それでは明らかに、先代経営者を超えることはできない、というのも明らかです。つまり、会社は質的にも量的にも今以上にはならない、ということです。今以上にならないどころか、上手くいかなければ容易にジリ貧状態に陥るということです。

 であれば、持つべきスタンスはただ一つ、「先代経営者の真似をしない」。これに尽きます。

 怖かろうと何だろうと、今の予測不可能な環境変化の中では、従来では思いも付かなかった打ち手を打ち続けていくことが必要なのです。

 頼もしいことに、先に紹介した和菓子製造販売の三代目経営者は、そのことを分かっていて、先代経営者の時代には思いもよらなかった販路を次々と開拓しているようです。売上に貢献するには、ある程度のタイムラグを覚悟しなければなりませんが、確実に新しい基盤を構築しつつあります。

 この会社が2年後3年後、どのような成長を遂げているのか、今からとても楽しみです。

 さて、この経営者に限らず、存続を賭ける二代目三代目の経営者は、常に先代経営者とは異なる観点で経営をしています。その結果、売上を作り、利益を作り、10年20年それ以上存続する強い会社になるための基盤を作っていくのです。

 その際に留意すべきなのは、先に挙げた「先代経営者の真似をしない」に加えて、もう一つあります。

 それは、・・・

 「仕組みで経営する」ということです。

 企業というものは、その事業の素晴らしさが社会的に認められると、売上が増大して、望むと望まないとに関わらず、事業規模が拡大していくものです。そこで、最も避けなければならないことは、売上増大に対応すべく、何のコントロールもせずに、仕入も増やして、営業担当者も増やして、その結果、事業継続の命綱である資金繰りが回らなくなり、倒産という最悪の事態に陥ることです。

 これは、事業規模が拡大する過程で、売上、仕入、製造、管理、人事、その他諸々の業務プロセスがキャッシュフローに与える影響を、仕組みの中でコントロールしてこなかったことの代償とも言えます。

 事業規模が拡大する手前でこそ、仕組みづくりは断行すべきなのです。

 仕組みがあれば、損益を商品単位・顧客単位で把握できるので、赤字商品・赤字顧客がもたらす「隠れた赤字」を撲滅でき、逆に、黒字商品・黒字顧客が持つ「伸ばし切れていない黒字」を完全黒字化することが可能となります。

 この「見える化の仕組み」を人手もコストもかけずに回せる体制があれば、経営者として、様々なことに挑戦できます。たとえば、事業構造を組み替えて、高収益事業を作り上げる、ということも可能になってくるのです。

 事業の流れそのものが、ひと昔前とくらべて複雑に入り組みつつある現在、仕組みなくして経営状態を把握することはできません。このことは、業種を問いません。

 「経営状態を見える化する仕組みを構築した上で、先代経営者とは異なる観点からの経営を走らせていく」、二代目三代目経営者が取り組むべき最優先課題は、これに尽きます。

 あなたは、先代経営者からバトンを受け取った後、見たこともない領域へ足を踏み出すことを「リスク」と捉えますか?それとも「最大のチャンス」と捉えますか?