今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第3話] 「一時の苦境を受け入れる度胸」が将来をたぐり寄せる

経営者は常に

先日、コンサルティングのお客様から「村上さん、今度、商売道具の軽自動車を中古ですが何台か増車することにしました。なので、今期は減価償却費が大幅に先行します。文字通りの先行投資をやります。」と言われました。

そのお客様は軽自動車で小さい荷物を運ぶ運送会社を経営しています。巷で話題になっているような大手運送会社の外注先となって、一定のエリアを目まぐるしく巡回して荷物をお届けしたり、もちろん元請となって荷物をお届けする場合もあります。

彼らにとって、軽自動車は売上を稼がしてくれる大切な商売道具なのです。中小企業の彼らにとって、多くの台数を所有したいのはやまやまですが、中古と言ってもそれ相応の設備投資になります。中小の運送会社は文字通りの薄利でギリギリ成り立っているので、おいそれと設備投資に踏み切れないでいるのが実情なのです。

そのような業界の常識の中で、このお客様は設備投資に躊躇なく踏み切ったのです。

さらに聞くと、「この設備投資は、ある大手運送会社さんの外注仕事をこなすための準備なんですよ。その大手さんの今期売上はまだまだ僅かですが、来期に入れば必ず大きく伸びてきます。そうなるような信頼関係を先方と構築してきていますから。」と凛とした顔つきで説明してくださいました。

減価償却の進め方についても顧問税理士の先生と既に打合せ済みで、どの中古車両も購入の翌年度末に減価償却が完了する方法で処理するとのことで、「償却完了までは利益はトントンになればいい、償却が完了した以後はかなりの利益を享受できていくはずだ。」というシナリオを明確に描かれているのです。

もちろんそのシナリオ通りいくかどうか、確定しているわけではありません。しかし、今回の設備投資にかかる投資リターンのモニタリングは、社長自らが実行していきますし、仮に異常事態が出たとしても兆候段階で潰せるよう、私もモニタリングの精度が上がるためのサポートをしていくので、とても楽しみです。

ぜひとも、今回の設備投資が同社に大きなリターンをもたらしてくれることを期待してやみません。

さて、企業活動は絶え間ない環境変化の中で続けていかなければならない、とても厳しいものです。「そんな事は十分に分かっている!」と言われるかも知れませんが、敢えて言わせていただきます。

経営者は揺るぎない信念やビジョンを持って経営に当たりますが、会社そのものは市場ニーズを的確に嗅ぎ取って、それに対応するように変化し続けていかなくてはならないものです。経営者の信念やビジョンが揺らいではいけませんが、会社そのものは市場ニーズの変化に対応するように絶え間なく変わり続けなくてはならないのです。

経営者にとって、環境変化はビジネスチャンスでもありますが、怖いものでもあります。なぜなら、対応を誤れば、社運が途絶えてしまう場合だってあり得るからです。

当然、環境変化対応の一環で、設備投資という選択肢も出てきます。その投資がリターンをもたらしてくれるかどうかは誰も確約してくれません。むしろ、競合はその投資が上手くいかなくなるような対抗措置を、手を変え品を変えぶつけてくるのが、この資本主義社会の常です。

その真っ暗闇の中で経営者として判断を下し、多額のお金を投じて、会社として生き延びるための設備投資を断行するのです。しかも、その設備投資がリターンを生むのは、必ず一定規模のタイムラグがあります。その間は当然ですが、設備投資のコスト面だけの影響が如実に業績に出てきます。

つまり、減価償却費とその設備に関わる人件費や諸経費のみが損失として発生するのです。

一定期間、この状況に向き合う中で、経営者としてなくてはならないものが「度胸」ではないでしょうか。あまりにも単純な言葉になりますが、それしか思い付きません。ここで、経営者としての軸がブレるようなことがあってはいけないのです。

この時こそ、起業した時の志(こころざし)の強さ、経営理念の確かさ、ビジョンの鮮明さ、等々が総動員で経営者を内面から盤石のパワーで支えてくれるのです。

経営者は孤独、とはよく言ったもので、まさに言い得て妙です。経営者が、誰も助けてくれないこういった修羅場を乗り越えていくからこそ、設備投資のリターンをもたぐり寄せることができるのです。

その結果、従業員や取引先からの求心力も強くなり、会社としての魅力や強さがさらに増幅していくのです。

先に引き合いに出させて頂いた私のお客様も、「一時の苦境を受け入れる度胸」があるからこそ、やがては「将来をたぐり寄せる」ことが出来る経営者のお一人と言えるのではないでしょうか。

あなたは経営者として、いかなる場合も揺るがない度胸を持ち合わせていますか?