今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第10話] 月次決算では経営改善の手は打てない!

結果は変えられないが、

私がかつて職業会計人として、会計監査をしている頃のお話しです。

会計監査の仕事というのは、監査先の企業が作成する決算書が公正妥当な会計基準に準拠して作成されているか、平たく言えば「嘘の決算書を作っていないか」をチェックする仕事です。その中の業務の一環として、監査先企業の動向を客観的に把握するために、経営会議といった重要会議の議事録を閲覧することも大切な仕事でした。

議事録には、経営判断を迫るような案件だけでなく、定番メニュー的に「月次計画に対する前月実績の比較分析及び今後に向けての対策」が必ず記載されていました。その部分を拝見していつも感じていたことですが、会社ごとではありますが、分析コメントの仕方に一定のパターンが見受けられていたのです。

たとえば、先月の売上が計画より下回っている場合、その理由として、「競合店が近隣に進出してきたから」とか、「顧客の値引き要請が厳しいから」とか、「営業マンのプレゼンスキルがなかなか向上しないから」といった具合に、具体的な打ち手に到底結び付けられないような理由のオンパレードなのです。

むしろ、理由とは程遠い、単なる言い訳としか思えないコメントばかりだったことを今でも覚えています。

これは、何も未上場会社に限ったことではなく、上場会社でもよくお見受けしたことです。しかも、経営会議というのは役員や部長クラスがが出席するので、先にご紹介した発言は、経営陣の方々のものだったということです。非常にお寒いかぎりと言わざるを得ません。

ここで、改めて「売上高」を例にとります。

売上高として月次決算書に数字が計上されるためには、その前提段階でいくつもの業務プロセスを経過します。実際は、そこには業種特有、もしくは会社特有のプロセスも含まれます。しかし、ここでは、一般的な製造販売業を想定します。その場合、次のような業務プロセスを経て、売上高が計上されていきます。

「見込み客へのアプローチ(電話、訪問)」→「商談」→「見積り」→「受注」→「製造」→「出荷」→「納品」→「売上計上」→「アフターフォロー」等々

このように、売上計上に至るまでの業務プロセスは多岐に亘り、かつ複数の部署が絡みます。つまり、いきなり「オギャー」と売上が生まれる訳ではないのです。

先ほどの例で紹介した会社の場合、売上が計画未達の場合、その前提となる複数の業務プロセスのどこかで、なるべくしてそうなった原因があったはずです。

たとえば営業マンは、「見込み客へのアプローチ」は多くの件数をこなしているのに対して、「商談」については既存客対応に忙殺されて、なかなか時間が取れず、商談実施までの時間を必要以上に空けてしまい、商談をキャンセルされるケースが多いことがあり得ます。

また、「製造」プロセスの品質管理のレベルが低いため、不良品のまま出荷して、かなりの確率で返品を受けている場合もあり得ます。

このように、商談キャンセル率の高さ、返品率の高さだけ見ても、売上を低迷させている原因について仮説が立つ訳です。つまい、いきなり「ドロン」と売上が消えてなくなる訳ではないのです。

売上高の原因となる業務プロセスに全く目を向けず、結果である売上高にしか目を向けない愚を知るべきです。

では、業務プロセスに目を向けて打ち手に反映するにはどうすればいいのでしょうか?

そのためには、業務プロセスを経営数値化する仕組みを作り、見える化することが大事です。計画でも実績でも同じことをやるのです。

これにより、毎月、計画と実績において業務プロセスの巧拙を数値で見える化し、結果を想定した上での打ち手を打つことが可能となります。

売上高という結果の原因となる業務プロセスに焦点を当てることにより、可能な限り仮説を立てて、打ち手が打てるようになるのです。もちろん、上手くいく場合といかない場合があります。しかし、結果しか見ていない経営と比べたら、打ち手の精度には雲泥の差がつくのは自明です。

結果の原因となる業務プロセスを経営数値化する仕組みづくりは、決して簡単ではありません。しかし、ひとたび仕組みを構築し、回し始めると会社にとっては一生ものの財産となります。ぜひとも取り組んでいただきたい二重丸の重要テーマです。

あなたは、結果にしか目を向けず無意味な手を打ち続けて会社の未来を不透明なものにするのか、それとも、しっかりと原因に目を向けて最適な手をタイムリーに打ち会社を力強い未来に向かわせるのか、どちらを選びますか?