今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第13話] 経営者のコストを聖域化したままで、損益を見ることの愚

すべてのコストを商品・顧客単位に

先日、当社の個別相談に軽貨物運送業を展開する経営者の方が見えられました。彼は終始、自社の現状を感覚論ではなく、実際の数字を引き合いに出して説明されるので、その様子を見ていて、かなり数字にお強い経営者であるということが分かりました。

 私が日頃推奨している「損益を会社単位で見るのではなく、商品単位・顧客単位で見ていくことの必要性」に気付いていただきたくて、次のような質問をしました。「御社のような運送業の場合、損益を会社単位からさらに細分化しようとした場合、どの単位での損益が経営者として必要でしょうか?」

 社長曰く、「まずは荷主単位ですね。荷主の採算レベルは本当にバラツキがあって、正確に利益率を出したら、ピンキリの筈です。もしかしたら、赤字の荷主もあるかも知れない。次は車両単位でしょうか。車両についてもいろいろとあります。たとえば、行きは荷物を積んでいても、帰りは空車ということもよくあるので、車両によっては原価タレ流しのケースが多いのかも知れないです。」とのことでした。

 さらに「今のように、月次決算書に表示されている粗利益をいくら睨んでいても、何の打ち手も出せないのが正直なところです。粗利益を荷主単位・車両単位で見える化していかないと、効果的な打ち手を打つこと自体、難しいですね。逆にそれが出来るようになれば、暗闇で四方八方に打ち手を打つような無駄なこともしなくて済む。これからはそこを目指します。」とも仰っていました。

 世の中の中小企業を見渡しますと、この会社に限らず、ほとんどの中小企業が、粗利益ですら会社単位でしか見ていません。商品単位・顧客単位で見ていけば、赤字も黒字も存在しているにも関わらず、です。

したがって、赤字商品・赤字顧客の存在を見逃していて、売れば売るほど赤字を広げていることに気付いていません。逆もまた然りで、伸ばせば大きく儲かる黒字商品・黒字顧客の存在にも気付かず、大きな儲けのチャンスを逃しているのです。

 ただし、商品単位・顧客単位で損益を見る場合でも、度外視してはいけないものがあります。それは経営者のコストです。実はほとんどの企業が、経営者のコストを固まりのまま取扱い、商品単位・顧客単位で把握していません。

 なぜでしょうか?

 多くの会社では、経営者のコストを聖域的に捉え、中身まであれこれ詮索しないという不文律的な事情が存在します。そうした事情を踏まえた場合、様々なコストを商品単位・顧客単位に割り振っていく経営担当者としては、社長のコストの中身をあれこれ聞き出しづらいことになります。

 だからこそ、仕組み化してルールを作るのです。「1カ月の全てのコストを商品単位・顧客単位にヒモ付けできるようなフォーマットを設定し、毎月粛々と処理していく」のです。仕組みの中で処理をしていくことが定着すれば、「社長の今月の費用は本人に聞いてもいいのだろうか、どうなんだろうか?」などといった私情に近い遠慮もなくなります。仕組みのない都度対応をするから、ケースバイケースの悩みが生まれるのです。

 逆に、社長だから、とかXXさんだから、とかいった理屈のない聖域を設けて、例外的処理を特別ルール的に行っている会社自体を否定はしませんが、この発想にとどまっている限りは、残念ながら、仕組みで高収益事業を作り上げていくことはできません。

 なぜなら、経営者のコストは役員報酬、接待交際費に代表されるように、社員のコストと比べたら、圧倒的に多額です。この多額なコストを商品単位・顧客単位の損益を見る際に考慮に入れないというのは、初めから精度の高い打ち手を放棄しているのと同じだからです。

たとえ、経営者のコストに既存の商品・顧客にヒモ付けできない部分があったとしても、仮説を織り交ぜながらヒモ付けをしていくのです。そして、軌道修正の必要性が生じた都度、仮説の見直しをしていけばよいのです。

 経営者の活動は将来を見据えているとはいえ、実は既存商品・既存顧客に対して強く影響を与えています。その延長戦上で、新規商品・新規顧客が生まれて将来の基盤となっていくのです。いきなり、新規商品・新規顧客が目の前に「オギャー」と現れることはないのです。

当たり前のことですが、既存あっての新規なのです。なので、既存の商品単位・顧客単位で損益を見るためには、他のコスト同様に経営者のコストもヒモ付けていくべきなのです。

 さて、冒頭で紹介した軽貨物運送会社でも同じことが当てはまります。既に書いた通り、粗利益を荷主単位・車両単位で見ることの必要性に気付いていただいた後、先ほどの経営者のコストを固まりのままではなく、荷主単位・車両単位で見ていくことの必要性をお伝えしたところ、「やはり、そうですよね。」と即座に得心されていました。

それは、経営者であるご自分のコストの金額面だけでなく影響面の大きさを、肌感覚でお分かりになっているからです。

 以上のように、経営者のコストを含めたすべての費用を考慮に入れて、損益を商品単位・顧客単位で見える化する仕組みづくりは、一朝一夕にできることではありません。しかし、これなしに、高収益事業を作り上げることはできません。

 あなたは、生き残りを賭けた高収益事業を作り上げるために、経営者としてのコストも他のコストと同じように取り扱いますか?それとも、相変わらず聖域として特別扱いを続けますか?