今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第25話] 「何のために使うのか?」を伴わない資金調達は無意味

先日、ある集まりで知人の経営者にお会いした際に、「村上さんは助成金のサポートはやっていますか?」と聞かれました。

助成金サポートは企業の具体的な実務サポートであるのに対し、私は視点を出来るだけ上げた形での経営者サポートに取り組んでいるので、「いいえ、やっていません。」とだけ答えました。

お聞きすると、従来から社会保険労務士の専門領域であった助成金支援について、最近はAIを駆使して、助成金希望会社にとってどのタイプの助成金がマッチングするかを瞬時に識別する仕組みを作り上げたベンチャー企業があり、「その会社はこれから伸びていく可能性がありそうです」とのことでした。

企業経営に対するAIの影響についての言及は今後の機会に譲るとして、昨今は国策の一環で、助成金・補助金という形で、資金が民間企業に拠出されることは、運転資金の確保に汲々としている中小企業にとっては、ある意味福音です。

そして、国と企業の間に立って助成金・補助金の橋渡しをコンサルティングビジネスとして展開する動きも当然出てきます。上記のAIを活用した助成金マッチングビジネスもその一つです。

敢えてきつい表現をしますが、昨今は猫も杓子も助成金・補助金を獲得する側、もしくは繋ぐ側に殺到しているかのような印象を受けます。その良し悪しに関するコメントはここではしませんが、そういった事に目もくれない経営者もおられます。

助成金・補助金の原資は事業主が納めた雇用保険料・税金なので、受給を目指して何が悪いのか、という声が聴こえてきそうです。しかし、ここで言いたいのは、そういった個別的論点ではなく、もっと視点を上げた点です。

確かにこの厳しい御時世において、運転資金の一助となる助成金・補助金を獲得できるのはありがたいことであり、それを否定するものではありません。

しかし、経営者として、運転資金のプラスアルファという現象だけを目指して、その達成に満足しているとしたら、それは経営者としてのあるべき姿ではありません。

経営者にとって、この場合の助成金・補助金獲得はゴールではなく、むしろ単なる通過点に過ぎないと考えるべきです。助成金・補助金コンサルタントのゴール設定とは明確に異なるのです。

理由は以下の通りです。

経営者の究極の使命は、自社の限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)を最大限に機能させて、自社の企業価値をいかに上げていくか(自社に投下された資本の利回りをいかに高いレベルに維持するか)にあります。

この点を踏まえると、企業の資金にプラスアルファが生じたとしても、それ自体に大きな意味はありません。重要なのは、その流入した資金をいかに効果的にビジネスに絡ませて資本効率を上げていくか、つまり企業価値増大に繋げていくか、にあります。

つまり、「何のために資金を獲得したのか」という目的・理由が存在していなければ、資金が増えたところで意味が無いのです。

別の表現をするならば、理由・目的を明確にせずに獲得した資金は、無用の長物とまでは言わないまでも、「企業価値増大に繋げている」状態からは程遠い、ということです。つまり、明確な意思を伴った活かし方をされていないのです。

もう少し噛み砕いて言うならば、経営者は助成金・補助金などの企業支援の資金を獲得できたら、それで安心するのではなく、将来を見据えて「その資金を何のために使うのか?」について焦点を当てた上で、経営の舵取りをする必要があるということです。

ただし、助成金・補助金コンサルタントにその役割までを含めた一切合切を期待するのは、筋違いとわきまえるべきです。

なぜなら、彼らの基本的役割と目的は、企業に助成金・補助金を繋げて対価を得ることであり、そういったビジネスモデルだからです。

言いたいことは、経営者も一緒になって助成金・補助金獲得がゴールである、などと勘違いしては絶対にいけない、ということです。

経営者は、究極の使命である「企業価値の最大化」を模索する中で、数ある選択肢の中から、たまたま助成金・補助金を選び、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の一つであるおカネを増強させたに過ぎません。

冒頭に紹介したように、昨今、多くの企業が助成金・補助金を活用する時代に入ってきており、それを支援するビジネスも盛んになってきています。

事業展開に必要な資金注入は必要な事ですが、経営者たるもの、常にその先を見据えていただきたい、という思いを今回はお伝えしました。

あなたは、国の支援で自社の運転資金が増える状況に至ったとしても、眉毛一つ動かさず(つまり、一喜一憂せず)、「何のためにその資金を使うのか」について、全神経を集中することができますか?