年明け早々に、嫌な気分になるニュースが目に飛び込んできました。
ご存知の方も多いと思いますが、着物の着付けや貸衣装業を営む会社が、成人式を祝おうと予約してくれたお客様から前金を受け取っていたにも拘らず、式当日、店舗は閉鎖、連絡も取れない、という商売上あってはいけない事態を引き起こしました。
被害を受けた方の中には、「2年前に予約し、60万円も事前に支払った」という女性もおられるようです。
いつからか資金繰りに窮する状況が日に日に度を増してきて、ついに入金が大きなピークを迎えるであろう成人式のタイミングで、お客様から前金で預かったお金に手を付け、提供すべき商品・サービスも提供せずに行方をくらませたようです。
全く同じではありませんが、記憶に新しい事件として、格安ツアーを売り物にしていた旅行会社が予約客からの前金がありながら、旅行そのものは架空で、最終的には経営破綻したという一件がありました。
最終的な状況は言語道断、悪質極まりないものですが、彼らはビジネスを始めた当初からこれほどまでに悪質だったのでしょうか?
性善説に立つようですが、そうではないと思います。
ビジネスを展開していくどこかの段階で資金繰りが想定通りに回らなくなってきて、その恐怖に耐えかねて、経営者として越えてはいけない一線を踏み越えたであろうことは想像に難くありません。
彼らは「お客様から前金で預かっている売上代金に手を付ける」という、商売上の自殺行為に相当する行為に手を染めた訳ですが、資金が底をつこうとする時の恐怖は、その渦中に身を置いた人でなければ分からないと思いますし、いざその状況に追い込まれると人間は善悪の区別すら付かなくなってしまうのかも知れません。
ただし、そういった状況に陥る前に、そうならないための仕組みを構築するチャンスがあった筈です。
それは何か?
ひと言でいうと、財務的基盤を強化する仕組みです。
具体的には・・・、
- 来月末までの資金繰りを日次ベースで予測できる仕組み
- 新規設備投資がもたらす投資リターンを予測し、適宜必要な軌道修正ができる仕組み
- 業務プロセスのどの部分をコントロールすれば、利益をさらに上乗せし、資金増加に繋げることができるかを把握できる仕組み
- 従来のどんぶり勘定から完全に脱却し、会社の損益を赤字商品・黒字商品、赤字顧客・黒字顧客に峻別し、赤字商品・赤字顧客がもたらす赤字は撲滅し、黒字商品・黒字顧客をさらに大きく伸ばす仕組み
等々です。
ビジネスがある程度の規模に成長する手前で、これらの仕組みの構築に着手していれば、資金繰りに窮するという事態に陥ることはありません。
こうした仕組みの必要性を感じることもなく、闇雲に事業拡大に突っ走ってきた挙句の最悪の事態が、今回のような一件なのです。
冒頭に紹介した貸衣装や格安旅行の会社と比べると規模的にケタ外れに大きいのですが、資金繰りに窮した挙句信じられないような対応をしているケースがあるので、そこにも触れておきます。
テスラというアメリカの電気自動車を製造販売する会社です。事業コンセプトや著名な経営陣という点からも、鳴り物入りの会社という評価で莫大な資金を集めたものの、当初の期待通りにはビジネスが進展せず、現在は御多分にもれず、資金繰りに相当窮している模様です。
そこで会社が取った対応策が「最新鋭の新車は2年後納車でも頭金に2,840万円申し受ける」というものです。驚いたのは、この頭金金額は車両価格全額そのものなのです。
乱暴な言い方ですが、「事ここに至っては、もう滅茶苦茶!」としか言いようがありません。
ニュースの情報によりますが、1分間当たりの現金消滅額はなんと約91万円だそうです。かつては巨額に集めたはずの手元資金ですが、このペースですと数か月後には使い切ってしまう計算になるそうです。
名だたる実業家で構成された経営陣がいたとしても、そして、(おそらく)メジャー級のコンサルティング会社が多数関与していたとしても、このような事態に陥ってしまうということです。企業規模の大小は関係ないのです。
以上、3つの実例を紹介しましたが、予測不能な外部環境の中で事業展開している以上、世の中の全ての企業が、これら不祥事を起こす予備軍と言えます。企業として、経営者として、越えてはいけない一線を越えずに踏みとどまるには、経営者の品格ももちろん必要かも知れませんが、それだけでは綺麗ごとの範疇に入ったままです。
経営実務の観点からは、経営悪化のアラームを事前に察知し知らせてくれる仕組みの存在が、一線を越えることを許さない防御策となるのです。
人間という生き物は、順風満帆の時ほど自信に漲り、不測の事態に備えるために時間もコストもかけようとしません。しかし、結果論で見ると、順風満帆な時こそが、不測の事態に備えるために時間とコストをかけるチャンスなのです。その事に早く気付くべきです。
企業というものは生き物です。それを取り巻く競合も含めた外部環境も同じく生き物です。それぞれが自らの存続を目的として動いています。
したがって、会社に降りかかる危機は自社で回避していかなければなりません。他社が守ってくれることは絶対にありません。
常に起こりうる危機を想定し、会社の立ち位置をその危機から最も遠い場所に置くような対策を打ち続けなければなりません。
今回は資金繰りに窮した会社を通して、経営者のあるべきスタンスについて言及しましたが、特に資金ショートは経営者であれば誰もが例外なく回避しなければならない最悪の事態の一つです。
経営者たる者、こういった最悪の事態に陥らないような仕組み構築を、常に念頭に置いていただくことを願ってやみません。しかも、順風満帆な時こそ。
あなたは、リスクの対極に会社が位置取りできるように、あたり前のように危機意識を研ぎ澄ましていますか?