今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第28話] 目線が今のままだと、ゆでガエルになるだけです

当社のコンサルティングを受けておられる社長と先日雑談した際の一幕です。

「この業界に身を置いて約5年ですが、曲がりなりにも会社は続いています。しかも、底を這っているというのではなく、同業よりも先んじているという感覚です。」

こちらの会社は、軽貨物運送業を営んでおり、社長の前職は今や日本では知らない人がいないくらい勢いのある家具製造販売会社で、そこで中間管理職まで勤め上げた経歴の持ち主です。その大企業での経験を生かした経営を現在実践されています。

この社長曰く、「周りの同業他社は、『今この仕事を請けて儲かるか儲からないか』の判断基準しか持っておらず、そういった会社は何かの拍子でつまづくとドミノ倒しのように経営が悪化して倒産していきます。それも数社ではなく、かなりの数が、です。」

この社長が日頃心掛けていることは、例えば以下の通りです。

  • 通常の稼働車両が車検や修理を受ける時に備えて予備車を確保しておくのは、この業界の鉄則。予備車の稼働率は当然の如く低いので、必要最小限の整備を施せば動くレベルであれば全く問題はなく、なおかつ価格も安いので、そういう中古車しか買わない。その中古車価格が新車価格の(例えば)5分の1であれば、新車1台分のコストで予備車を5台そろえることができるので、車両の数的にも緊急対応が重なった場合でも十分対応できる。(これに対し業績を悪化させている同業他社は、この予備車に新車を充てるため、投資効率も非常に悪いし、なおかつ緊急対応が重なった場合に全く対応できず、ビジネスチャンスを次々と逃すケースが多いとのこと)
  • 決まったエリア内であちこちキメ細かく動き回ることが要求される宅配便と、概ね決められたルートを日々行き来する定期便とでは、車の消耗度合いは明らかに異なり、宅配便の方が消耗度合いは激しい。なので、車を新規購入する場合、宅配便には定期便よりも相対的に耐久性の高い車を充てる。つまり、戦略的にコストをかける。(これに対し業績悪化を招いている同業他社は、宅配便だろうと定期便だろうと、横並び的に新車を充てるケースが多いとのこと)
  • 社長の社用車は使用頻度も低いことから、社員が業務で使う車よりもさらに安い車を使っている。(これに対し業績悪化を招いている同業他社は、社長の社用車には新車を充てるケースが多いとのこと)

 

以上3点ほど、当社のクライアントとその同業他社との差が歴然と分かる事例を紹介しました。いずれも商売道具である車両という設備投資に関する経営姿勢の事例ですが、この1点だけとっても大きな違いがあるのです。

ビジネス展開のやり方についても同様です。

この社長は、定期便、宅配便、チャーター便、スポット便など、同業他社に比べたら、多めのサービスメニューを取り揃えています。各サービス単位の利益率は高低様々、取引先単位での利益率ももちろん高低様々です。

ちなみに、この利益率の違いを今後当社のコンサルティングを受ける中で、見える化し、経営戦略にフル活用していける仕組みを構築していくので、今後の展開が非常に楽しみです。

話を戻しますが、社長は利益率の高低を感覚的に掴んでいる中で、低利益率のサービスにも敢えて戦略的に取り組んでいます。理由は、瞬間的に見れば確かに赤字の仕事ですが、そこをきっかけにして、将来的に高利益率のサービス受注の可能性を十分見込んでいるからです。

つまり、自社の状況を現時点での「静止画」で観ているのではなく、現在を起点にして将来にわたっての「動画」で見ているのです。

業績の悪い同業他社については推して知るべしで、明らかに儲かりそうなサービスにしか取り組もうとせず、結果的に取引先目線ではなく、自社目線のサービスメニューになっているとのことです。

たとえ現時点は儲けはほぼゼロでも、そういった仕事を請けることにより信用が増して、将来的な高利益率の仕事の受注に繋げるような、戦略性を伴った仕事の取り組み方を完全に忘れています。いわゆる「損して得を獲る」的な発想が欠落しているのです。

目先の儲けをまずは確保しないことには、会社の存続自体が危うくなるではないか、という声もありましょうが、目先だけ見据えた経営が今後ジリ貧しか招かない、ということには異論の余地はないでしょう。

闇雲に、損して得を獲るべきだ、と言うつもりはありません。その考え方を押し付けるだけでは、時代錯誤の根性論と何ら変わりません。

損して得を獲る経営姿勢が実を結ぶためには、常にその後ろ盾が必要なのです。

それは何か?

それは、次のような経営指標を把握できる体制です。

  • 損して得を獲るために、現時点で許容できる低利益はどれだけか?
  • 先行投資的に低利益を吸収する場合、それをカバーすべき黒字はどれだけ必要で、現時点で自社はどれだけの黒字が見込めているのか?
  • 低利益を戦略的に吸収する場合、どのタイミングで高利益に転じるべきなのか?つまり、低利益を許容可能なタイムリミットはいつなのか?

などの冷徹な経営指標を常に把握可能にして、経営判断材料を完璧に準備しておく必要があります。

この経営判断材料なくしては、損して得を獲る経営ははっきり言って危険過ぎます。到底お薦めできるものではありません。

一見大胆にも見えるこういった経営姿勢の裏には、それを支える理詰めの仕組みが必ず存在しています。そうでなければ、ただの一か八かの博打でしかありません。

経営を「静止画」ではなく「動画」で観ることができる経営者は、自社の行く末を一定の時間軸に投影させて戦略を練っています。

逆に、経営を「静止画」でしか観れない経営者は、現時点で儲かるのか儲からないのかといった尺度しか持ち合わせておらず、先の事を考えることなく、現時点で儲かる方向のみに、会社の動きを合わせていきます。

つまり、自らジリ貧になる方向に舵を切っていくのです。当然の如く、そこには一定の時間軸という戦略的概念は微塵も存在していません。

ジリ貧になる道を自ら選んでゆでガエルになるのか、同業が勝手に倒産していく様子を尻目に見ながら自社を戦略的に発展成長させていくのか、分岐点は一つです。

会社の行く末を、「静止画」で観るのか「動画」で観るのか、だけの違いなのです。しかし、その違いはとてつもなく大きい。

あなたは目線を上げて、会社の行く末を静止画でなく動画で観ていますか?