今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第31話] 「経営計画は不要」と嘘ぶく経営者が、やがて淘汰されていく理由

企業というものは、創業者が志を持って起ち上げた事業を世に発信していくための器(うつわ)であり、その事業が社会の役に立てば立つほど、永きに亘り存続していくべきものである、という考え方があります。

また、経営者は、その企業の司令塔にあたる役割を担っており、暗闇の中、企業の行き先を一筋の光で照らし続けていく責務があります。

そして、経営者の思いを具体的に表現し、企業の行き先を明示する羅針盤になり得るのが経営計画なのです。

今、「企業の行き先を明示する」と書きましたが、実はほとんどの企業経営者、特に中小企業経営者が、経営計画不在の経営をしています。

これは、「経営計画が持つ真の意味と威力を知らないことの結果」であり、それだからこそ、「世に言われる、中小企業の塗炭の苦しみから抜け出せないままでいる必然」を感じざるを得ません。

経営計画不在の具体的ケースとしては、以下の通りです。

最も多いのが、「経営計画など作ったことがない」という、文字通りの経営計画不在のケースです。

次に多いのが、「経営計画は以前作ったことがあるが、作ったきりで見返したこともない」というケースです。

かつて銀行から融資を受ける際に、銀行担当者から借入申請手続き上必要だから、と言われて顧問税理士の協力の元に策定したものの、そのままになっているというケースです。このケースも経営計画の真の意味を誰も分かっていない状況下で、銀行借入れのために策定しただけなので、経営計画不在のケースに準じるものです。

以上が経営計画不在のケースですが、彼ら経営者はなぜ経営計画を持とうとしないのでしょうか?

端的に言えるのは、「その必要性を感じていないから」です。

人間は必要性を感じないことには一切興味を示しませんし、かつ行動にも移さない生き物です。

ただし、ここで明確にしておかなければならないのは、「経営計画の必要性を感じていない」と考える経営者の判断基準のレベルです。

彼ら経営者は経営計画の真の意味をどこまで認識した上で、「必要性なし」と判断を下しているのでしょうか?

結論から行きますと、その判断基準のレベルは非常に低いです。以下、彼らがその価値をほとんど認識できていない「経営計画が持つ真の意味と威力」をお伝えします。

ここで、自然素材の住宅を施工販売している、とある住宅メーカーを想定してください。自然素材住宅は次のような特徴を持っているとします。

一つは、自然素材の住宅は、住む人の健康を守る。例えば、アレルギーやアトピーとは無縁の生活を送ることが可能になる。

一つは、自然素材の住宅が普及することにより、原材料としての木材を確保すべく山林の伐採を定期的に進めるので、山林そのものの健全性の維持に繋がり、ひいては山林が大雨による被害拡大を食い止めてくれる効果も望める。

といった2点が挙げられるとします。

この会社の創業経営者は、次のようなビジョンを持っているとします。

  • 世界中の人々が自社の提供する自然素材住宅に住むことにより、アレルギーやアトピーとは無縁の健康状態を手に入れて、その健康状態を一生維持できるようになる。
  • 自社が自然素材住宅を世界中に安定供給することが、その原材料となる木材を山林から伐採することに繋がることになり、世界中の山林が適切な再生循環を維持し、大雨等による水害被害を最小限に食い止めて、人々の貴重な生命を守る。

いずれのビジョンも、自然素材住宅が持つ特質に根ざしたものです。

このような明確なビジョンを持っている場合、経営者は純粋にそのビジョンが実現された状態を目指そうとします。

これに対し、「いや、そうなりたいのは山々だけど、従業員がたかだか5~6名しかおらず、日々の資金繰りに汲々となっている今の我が社にしてみれば、雲の上のような話でとても無理な話でしょう。つまり、経営計画などウチにとってはまだ早いということですな。」と言い放つ経営者も実際におられることでしょう。

それはそれで人間の心理として自然です。しかし、だからと言って、良いわけではありません。

断言できるのは、自分が実現したい思える状況を、手の届かない夢として決めつけてしまっている理由は、「経営計画が持つ真の意味と威力に、今まで触れたことがないから」ということだけです。

先に例示で挙げた自然素材住宅メーカーの経営者が、そのビジョン実現を寝ても覚めても24時間考え抜いているような経営者であれば、次のように思考していくでしょう。

  1. 将来的には、自社のビジョンが実現した状況に到達したい。
  2. 1 のためには、今から10年以内に欧米エリアで自社商品の知名度を確立させて販売できる基盤を作っておかなければならない。
  3.  2のためには、今から5年以内に海外マーケットの足掛かりとして、アジア圏で自社商品の知名度を確立させて販売できる基盤を作っておかなければならない。
  4.  3のためには、今から3年以内に海外進出のためのパイロットテスト的な拠点をまず1か所、東南アジアに設置しなければならない。
  5.  4のためには、今から1年以内に海外進出プロジェクトチームを発足させて、具体的な準備がスタートできる体制を作らなければならない。
  6.  5のためには、今月中に海外進出プロジェクトチームのメンバー選定に着手しなければならない。それに応じて、新たな人員採用の要否も検討する必要がある。

以上のような思考を踏まえて、6 → 5 → 4 →・・・と各ステップを踏んでいきます。これが「ゴール逆算型の経営計画」なのです。

また、各ステップで必要な行動を起こしていくので、そこには必ずお金が必要になってきます。

つまり、各ステップでの行動計画と、それを実現するための数値計画(損益計画、人員計画、設備投資計画、資金計画など)を策定していくことになります。これら行動計画と数値計画を総称して経営計画と呼びます。

こうした毎期々々の目標到達地点目がけて、全社一丸で進んでいくので、途中過程で紆余曲折があるとしても、10年後の目指す姿、そしてその先の理想の姿に向かって着実に近づいていくことが可能となるのです。

逆もまた真なりで、毎期々々の目標到達地点の明示がなかったら、企業は何も変わりようがありません。到達したい情景が何も見えていないのですから当然のことです。

以上が、経営計画が持つ真の意味と威力です。

これを知らずして、「うちには経営計画など必要ない」などと嘘ぶく経営者は、真の経営計画を携えて経営を進めている競合に敵う訳がなく、やがては淘汰されていくであろうことは、容易に想像がつきます。

(ちなみに、中小企業でも一定規模以上になると、経営計画を毎期策定する企業も数多く見受けますが、実はその多くが全く誤った考え方で経営計画を策定しているのです。それについては、別の機会にお伝えします。)

あなたは、経営計画が持つ真の意味と威力を肚落ちするレベルで理解し、かつ実践し、淘汰とは無縁の世界で経営を積み重ねていますか?