今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第33話] 「売上が増えています」ではなく、「売上を増やしています」を目指す

いろいろな場で経営者とお話しする機会があり、その際に「御社の状況はいかがですか?」とお聞きすると、業績のいい会社の経営者からはよく「おかげ様で前期は売上も好調でした。」といったコメントが返ってきます。

このフレーズですが、実は以下のようなほぼ真逆な意味合いのいずれかを含んでいます。

まず一つ、「たまたま追い風に乗った結果、売上が伸びた」という意味合いです。

二つ目に、「売上は営業業務プロセスの結果であり、その結果を左右する原因を明確に把握しており、分析の結果、期待通り回っていなかったプロセスをテコ入れした結果、売上を伸ばした」という意味合いです。

つまり、実態を深掘りしていくと、その意味合いはほぼ真逆であるにも関わらず、言葉に出すとこのような同じフレーズで表現されてしまうのです。

経営者が目指すべきは、もちろん二つ目の意味合いであることに議論の余地はありません。

今までもこのコラムの場を借りて何度かお伝えしてきた通り、売上はあくまでも結果であり、「その結果を左右する営業業務プロセスの巧拙を経営指標として把握しているのか、いないのか」、「経営指標として把握しているとしても、それを戦略的にコントロールしているのか、いないのか」が極めて大切なのです。

売上計上に至るまでの営業業務プロセスの一例として、以下のようなプロセスがあるとします。

  • 見込み客へのコンタクト
  • コンタクトした見込み客との商談
  • 商談した見込み客からの見積り依頼
  • 見積り依頼を受けた見込み客に対するプレゼン
  • プレゼンを実施した見込み客からの受注獲得

このそれぞれのプロセスにも成否があります。その成否を経営判断指標として数値化し、経営者に提供できるような仕組みを構築します。

たとえば、(アポ取り)→(商談)→(見積り依頼)の比率が前年同月とほぼ同レベルだったとします。しかし、(見積り依頼)→(プレゼン)→(受注獲得)の比率が前年同月を大幅に下回っていたとします。

これを受けて会社としては、営業担当全員のプレゼンテーションのレベルを改めて総合的にチェックする、というアクションを早急に取れるわけです。そして、受注獲得比率を思惑どおりに前年同月レベルに押し上げることができるのです。

前提として、毎月こうした経営判断指標をつぶさに出せるような「見える化のための仕組み」構築が必要なのは言うまでもありません。

話を先ほどご紹介した二つの意味合いに戻します。

ある経営者が発した冒頭のコメント「前期は売上が好調だった」には二つの意味合いがあると書きました。

一つは、「たまたま追い風に乗った結果としての売上増加」。これは、今期において同じ状況を再現したくても基本的には難しいことを意味しています。なぜなら、「売上を増やした」のではなく、「売上が増えた」だけであり、その原因まで掴めていないからです。

もう一つは、「売上という結果を左右する営業業務プロセスの巧拙を経営指標として数値化し、コントロールしたことによる売上増加」。これは、今期においても同じ状況を再現することが可能であることを意味しています。なぜなら、「売上が増えた」のではなく、戦略的に「売上を増やした」からです。

このように、日本語で表現すると「売上を増やした」と「売上が増えた」の両者は、些細な表現の違いに見えるかも知れませんが、その持つ意味合いは雲泥の差があるのです。

以上のことは言うまでもなく、売上に限ったことではありません。企業存続の命運を握っている項目、つまり、売上高はもちろんのこと、各費用(仕入、人件費、広告宣伝費、研究開発費など)をすべて含めて、その結果が企業存続に大きな影響を及ぼす項目全般に当てはまることです。

少なくともこれらの重要項目については、結果に辿り着くまでの原因となるプロセスを戦略的にコントロールできる仕組みを構築して、結果を支配していく必要があります。

しかし、ここで留意すべき点があります。

それは、売上は闇雲に増やすだけ、費用は闇雲に減らすだけ、を目標にしているとしたら本末転倒だということです。

たとえば、売上の場合、前年を下回っている今期売上を前年並みに戻すために、

  • 「見込み客へのアポ取りをもっと増やせ!そのためには、夜討ち朝駆けの電話攻勢も構わない。徹底的にやれ!」
  • 「見込み客へのプレゼンでは当社商品のメリットを過大に訴えろ!ライバル社の商品をこき下ろすことも忘れるな!」

といった、およそ品性を欠いた営業活動を経営者が率先して営業担当に指示したとします。

その結果、もしかしたら、若干は受注獲得比率が持ち上がるかも知れません。しかし、それは一時的なもので終わります。その後待ち受けているのは、こうした強引な手を打つ前よりも、さらにひどい売上の落ち込みです。

なぜなら、強引な営業を強いられた社員は疲弊し、優秀であればあるほど辞めていくからです。それだけでなく、強引な営業攻勢に違和感を覚えた顧客も早晩離れていくからです。

やがて訪れるのはジリ貧の状況だけ、というわけです。

企業経営の標語のように使われている「論語とそろばん」とはよく言ったもので、経営者は理念(=論語)だけ追いかけてもダメ、業績(=そろばん)だけ追いかけてもダメで、その両者間のバランスを絶妙に取り続けていかなければならないのです。

しかも、パッチワーク的な対処では、社員に何一つ方向性を示すことができず、離職の温床を作るだけで、組織そのものを経営者自らの手で瓦解させていくだけです。

そうならない様に、必要なあるべき仕組みを構築した上で、理念と業績の絶妙なバランスを図っていく必要があるのです。

経営者たるもの、状況に翻弄されるのではなく、状況を支配していきたいものです。

あなたは、企業存続の命運を握る社内の業務プロセスを支配できていますか?