「企業は人なり」という昔から使われている企業経営の格言があります。
一般的な定義を表すのであれば、「企業は人で成り立っているのもであるから、企業を存続成長させるためには、人材を教育して能力を強化した上で、業務に当たらせるべきである。」と言ったところでしょうか。
しかし、このような事は企業経営者であれば百も承知であり、実際の経営の場で実践しているものの、なかなか期待しているような効果が出せないから苦慮しているというのが、実態ではないでしょうか?
実はこの「企業は人なり」にもう一つ別の概念を加味しないと、この格言は真の意味でその効果を発動しないのです。
それが「適材適所」です。
「企業は人なり。ただし、その大前提として、真の適材適所をまず整えるべし。」であり、これは、企業の存続成長のために計り知れない意味を持つのです。
何を言いたいのか、具体的にお伝えしていきます。
人にはそれぞれ、持って生まれた「先天の才」というものがあります。これは厳然たる事実として存在します。
Aさんは周囲に対して、物事の説明を非常に上手にできる人だとします。本人は特に意識するでもなく、はたまた特別に訓練したこともないにも関わらずです。この場合、Aさんは先天的に「伝達の才」が備わっている人と考えられます。
Bさんは何か問題が生じた際に、その背景とか自社を取り巻く業界事情とか、ありとあらゆる角度から吟味検討を加えて、問題の解決策を組み立てていくのが非常に上手くできる人だとします。本人も特に意識するでもなく、はたまた特別に訓練したこともないにも関わらずです。この場合、Bさんは先天的に「習得の才」が備わっている人と考えられます。
仮に、「伝達の才」を持つAさんですが、Bさんのような「習得の才」を持ち合わせていないとします。
その場合、Aさんを製造、人事、総務、経理、研究開発や品質管理といった、社外との接触機会が相対的に少なく、黙々と地道に一定のテーマに取り組むような部署に配置したとしたとします。
それは、Aさんの先天の「伝達の才」を生かすという観点から見た場合、ミス配置です。Aさんが本来持つ才を生かせる業務とは真逆の業務に就かせることになり、Aさんを生かすことができず、結果的に会社全体のためにもならないからです。
予め、Aさんの「伝達の才」を見極めている経営者であれば、Aさんを営業、経営企画、広報といった社外との接点を持つ環境下で、常に何らかの情報を発信していく部署に配置します。
Aさんは伝達の才を先天的に備えているので、特に意識しなくても、外部へ適切な情報発信をすることにより、本人の才を十分に生かすことになり、結果的に会社の存続成長に貢献していきます。
一方、「習得の才」を持つBさんですが、Aさんのような「伝達の才」を持っていないとします。
この場合、Bさんを営業、経営企画、広報といった「伝達の才」が要求される業務に就かせるのはミス配置です。
製造、人事、総務、経理、研究開発や品質管理といった、エネルギーを内側に集中させて物事を突き詰めていく業務に就かせることにより、Bさんの「習得の才」を生かすことになり、ひいては会社の存続成長に貢献していきます。
このように、各人が先天的に備えている才に適合した業務に就かせることが「適材適所」ということなのです。
「そんな都合にいいように人材配置ができれば世話はない。そもそも、その先天の才なるものは、どのようにすれば分かるのか?」と思われる方が数多くおられることでしょう。
そもそも、人というものは、それぞれが様々な先天の才を授けられた状態で、オギャーとこの世に生まれてきます。
その才は、持って生まれた宿命のようなもので、その人が生まれたタイミングや、どのような両親から生まれたのかにより千差万別です。
経営者たるもの、縁あって自分の会社を選んで入社してくれた新入社員の先天の才を生かすことも責務の一つです。
それが理屈抜きに本人を輝かせることに繋がると同時に、会社の存続成長の基盤になっていくからです。
この先天の才を見極めるための技法は現に存在しており、当社が提供するコンサルティングにおいても、経営者の要望があれば、適材適所についてのアドバイスをさせていただいています。
ただし、このアドバイスは経営判断に対する「備えの一つ」にしていただくためのものであり、依存していただくためのものではないことを付言しておきます。
巷では数多くのコンサルタントが「人材活用のための仕組み」云々を提唱していますが、それもすべてこの適材適所を踏まえた上で、初めて成立するものです。
逆に、適材適所を全く度外視して、闇雲に仕組みを作り、そこに社員を就かせたとしても、間違いなく十分な効果は期待できないでしょう。
自らの先天の才が全く生かせない業務に就かされた場合には、本人としては大いなる違和感を抱き、早晩辞めていく可能性も十分に考えられます。
仮にたまたま、当人の先天の才に合致した業務に就ける場合があったとしても、それはあくまでも偶然に過ぎず、決して必然ではないのです。偶然は何度も続くものではありません。
機会均等とか機会平等とか言って、社内のすべての業務をローテーション的に経験させる企業を数多く見受けます。全ての業務を経験させることにより、会社全体のことを体験させるという人事戦略の一つです。
確かに人材を育てる手法の一つではありますが、経営者として各社員の先天の才を見極めた上で、最終的にはその才を生かせる業務に就かせて、会社の貴重な戦力として活躍してもらうために、「途中のプロセスとして本人の才を生かせない業務にも敢えて就かせる」という人事戦略であれば、大いにやるべきです。
しかし、そういった各社員の才を踏まえた一連のシナリオなど全く意識せずに、通り一遍の人事戦略に陥り、単にすべての業務を経験させることが目的化してしまっているのであれば、その人事戦略は失敗に終わるでしょう。
ヒト・モノ・カネの経営資源が大企業に比べて圧倒的に不足している中小企業だからこそ、各社員の先天の才を見極めた上で、相応しい業務に就かせる必要があるのです。
真の適材適所を整えた上で、仕組みを構築できれば、各社員は先天の才を確実に生かすことができますし、人材の集合体である会社そのものの存続成長が推進されていくことは火を見るよりも明らかです。
経営者の皆さんにおかれましては、今一度、社内の人材配置の妥当性につていて、真摯に向き合われることをお薦めします。
僅かでも違和感を感じるのであれば、それは社員の先天の才を生かしていない可能性があります。
あなたは、社員一人一人の先天の才を見極めて、彼らを生かすための組織配置を行っていますか?