先日、電車で移動中、車窓から外の景色を眺めていたところ、満開の桜の合間から、お寺の本堂が見えてきました。南向きの大きな瓦屋根が近づくにつれてやや不思議な感じがしたので、よく目を凝らしたところ、その大きな瓦屋根一面にぎっしりと太陽光パネルが敷き詰められていました。
お寺は、人の死から先の時間を司る伝統的な存在であり、「古きもの」の典型です。その「古きもの」の典型であるお寺の本堂の瓦屋根が一面、「新しきもの」の典型である太陽光パネルで敷き詰められた様子を見た時、「古きもの(既存)」と「新しきもの(新規)」がごく自然にそこに共存しているようでした。
少々唐突感を感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、この「既存」と「新規」が共存する別の存在として、企業についてお伝えしてみたいと思います。
企業はご存知の通り、様々な局面で「既存」と「新規」が共存しています。例えば、既存商品と新規商品、既存顧客と新規顧客、既存事業と新規事業、既存システムと新規システム、既存社員と新規社員、既存役員と新規役員、などなどです。
そもそも「新規」と聞いた場合、現状に甘んじることなく、生き残りを賭けたチャレンジ性を連想します。しかし忘れてならないのは、「新規」を採り入れようとしている時に、そこに必ず存在している「既存」の存在です。今日お伝えしたいのは、新規を採り入れる際に、必ず存在している「既存」に対する向き合い方です。
先ほど既存と新規について幾つかの例を掲げましたが、ここでは、既存商品と新規商品について言及していきます。
企業が生き残りを賭けて新規商品を開発する場合、必ず既存商品が存在します。そして、その既存商品への向き合い方として、2つのパターンがあります。
一つは、既存商品の採算状況をつぶさに把握し、赤字商品があれば適切なテコ入れを試み、黒字転換に持ち込むか、廃番することにより赤字タレ流しを食い止めます。また、伸ばし切れていない黒字商品があれば適切なテコ入れを試み、主力商品に転換することにより、黒字を伸ばしていきます。このように、できる限り「既存を活かす」ことを先ずやるのです。その延長線上で、将来の収益の源泉を創り出すべく、新規商品の開発に着手していくパターンです。
もう一つは、既存商品の採算状況が把握できていない場合で、ドンブリ勘定的に現状の業績が低迷していることに危機感を抱き、既存商品から一刻も早く乗り換える、つまり「既存を切り捨てる」ために、隣の芝生は青い的な発想で、新規商品の開発に着手していくパターンです。
この2つのパターン、最終的には「新規を採り入れる」という方向性は同じように見えますが、次元が全く異なります。
経営者として避けるべきは、明らかですが、後者の「既存を切り捨てる」ために新規を採り入れるというパターンです。
その理由と弊害について、以下お伝えしていきます。
企業は、大企業や中小企業の企業規模に関わりなく、様々な商品サービスを様々な顧客に提供して対価を得ています。そこから仕入れ代金や人件費や諸経費を差し引いた残りが利益です。この利益がプラスであれば黒字となり、マイナスであれば赤字となる訳です。
ただし、ここでの黒字とか赤字とかは、結果としての会社全体の利益の塊りにすぎません。
言い換えるならば、最終利益が黒字でも、商品単位で採算を見ていったとしたら、黒字商品もあれば赤字商品もあります。しかも、黒字商品の中には大黒字の商品もあれば、伸ばし切れていないギリギリの黒字商品もあるのです。赤字商品の中にも同様に、大赤字の商品もあれば、もう少しで黒字に転じそうな赤字スレスレの商品もあります。
以上から、商品単位で採算状況が把握できるとした場合、様々な打ち手を繰り出すことができます。
例えば、伸ばし切れていないギリギリの黒字商品については、広告宣伝の強化や営業担当者の拡充などにより、売上を大幅に伸ばし会社の主力商品に育てることができます。
一方、大赤字の商品については、市場の状況をリサーチして、赤字挽回の見込みがなく、売れば売るほど赤字が膨らむだけという判断のもと、商品そのものを廃番にして、赤字タレ流しの状況を食い止めることができます。
これにより、伸ばし切れていない黒字は大きく伸ばし、逆に売れば売るほど積み上がっていた赤字タレ流しは食い止めて、結果的に利益のプラス化をダブルで実現していくことが可能になるのです。
逆に、商品単位の採算状況を把握することなくドンブリ勘定的に、会社全体の利益の塊りが赤字だからという判断材料だけで、既存商品に見切りを付けて新規商品に切り替えようとしたらどうでしょうか?余りにも短絡的な経営姿勢ではないでしょうか。
この「既存商品の採算状況を把握することなしに新規商品に乗り換える」という経営姿勢が常態化すると、ある弊害が生じます。
それは、単純に「同じことが繰り返される」という弊害です。
つまり、企業存続を図るつもりで採り入れた新規商品についても、ドンブリ勘定は変わらないので、商品単位の黒字・赤字の状況把握ができず、従前同様に会社全体の利益の塊りで経営判断を行います。その結果、赤字であれば、再び既存商品を切り捨てて新規商品を模索していく、という不毛の循環に巻き込まれていくことになるのです。
この不毛の循環に巻き込た場合、ヒト・モノ・カネの経営資源を明らかに浪費することなり、経営資源に余裕のない中小企業などはこの不毛な消耗戦に耐えられません。企業存続など夢のまた夢になってしまいます。
そうならないためにも、先にお伝えした「既存を活かす」ことと確実に実行した上で新規を採り入れる、という経営姿勢を持っていただくことが必要不可欠なのです。
あなたは、既存商品の状況をつぶさに把握し、打つべき手を打った上で、新規商品を採り入れていますか?