今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第40話] 「財務的基盤は厚くするべし」という鉄則がある。しかし、決してこの鉄則を鵜呑みにしてはいけない。それはなぜか?

当たり前のように言われている経営の鉄則の一つに、「財務的基盤は厚くするべし」があります。しかし、会社を弱体化の方向に向かわせたくなければ、決してこの経営の鉄則を鵜呑みにしてはいけません。

では、そもそも財務的基盤とは何でしょうか。

具体的に言うならば、内部留保です。

つまり、財務的基盤を厚くせよとは、内部留保を潤沢に持て、ということです。

さらに具体的に言うならば、自由に使えるキャッシュを潤沢に持て、ということです。

少々唐突ですが、人間とは快楽を求め、痛みを避ける生き物です。これは人間の本質的な特性でもあります。

経営者も人間ですから、経営者として求める快楽があります。その一つに、潤沢なキャッシュを持つことが挙げられます。逆に避けたい痛みの一つとして、キャッシュの枯渇が挙げられます。

なので、経営者は、潤沢なキャッシュを持つという快楽の具現化を求めて会社を経営していくのです。

経営者(=人間)としての快楽を追求して結果、潤沢なキャッシュを手に入れるところまでは、それは事業が発展した結果での内部留保であったり、金融機関や株主から評価された結果での資金調達であったり、それ自体、望ましい結果と言えます。

しかし、そこで油断しては駄目なのです。これはまだ、見せかけの快楽にすぎません。

つまり、一時的にキャッシュを潤沢に持つという快楽を得た後に、本当の快楽と痛みの分岐点が待っていて、経営者がその分岐点で快楽に進むのか、痛みに進むのかで、会社の状況は大きく変わっていきます。

しかし、その分岐点の存在が軽視されているケースが非常に多い。

その分岐点とは何を意味するか?

それは、潤沢なキャッシュを、経営者が描くビジョンに沿って使っていくのか、いかないのか、ということなのです。

もう少し具体的に言います。

ひとたび潤沢なキャッシュを手にした経営者は、どのような方向を目指すのでしょうか?実は、その時点で経営者がどこに向かうのかが大きな分かれ目となります。

目指す先として、一つ目に考えられるのが、今まで経営の羅針盤として運用してきた経営計画がある以上、引き続き、その経営計画に沿った形で経営を進めていこう、という方向性。(=経営計画の実現を愚直に志向する方向性)

二つ目に、ついに潤沢なキャッシュを手にすることができたことだし、一旦はここで経営計画実現に向けた手を緩めて、今後はそのキャッシュを元手に、自社の経験・ノウハウが活かせないものの、世間で将来的に流行るであろうと話題になっている新規ビジネスに打って出よう、という方向性。(=現実逃避、もしくは隣の芝生は青く見える的な方向性)

三つ目に、上記同様に、経営計画実現に対する手を緩めて、潤沢なキャッシュを経営者自らのために使う、という方向性。例えば、社長用の社用車を高級外車に替えるとか、接待交際の程度を無意味に増やす、とかいう方向性。(=経営者が自分自身を根拠もないのにチヤホヤしてしまう方向性)

他にも捻り出せそうですが、キリがないので、典型的な3つを列挙しました。

もうお分かりと思いますが、一つ目の方向性は、苦労が伴うかも知れませんが、やがては「会社が発展成長してキャッシュが増える」という快楽が再び待ち構えています。快楽が待ち構えていると前もって知っていたら、今まで同様の苦労が予想されたとしても、こちらを選ぶでしょう。

二つ目の方向性は、貴重は経営資源であるヒト・モノ・カネをドブに捨てることになり、挙句の果てには「潤沢にあったキャッシュを激減させてしまう」という大きな痛みが待ち構えています。

三つ目の方向性は、いわずもがなで、かつて上手くいったことを全てが自分の才覚のおかげと大きく勘違いした経営者が辿る末路で、「キャッシュの雲散霧消」という確実な痛みしか待ち構えていません。呆れ果てた優秀な社員がこぞって退職するというダブルパンチもおまけで付いたりします。

こういった痛みが待ち構えていると前もって知っていたら、たとえ一時的に面白おかしく毎日を送れることが分かったとしても、こちらを選びはしないでしょう。

いずれを選ぶかは経営者の自由であり、自己責任でもあります。

しかし、「快楽を求めて、痛みを避ける」という人間の本質を、企業経営にシンプルに重ね合わせながら、経営者として日々経営に向き合っていれば、経営計画の達成に真摯に取り組むことこそが最適解ではないでしょうか。

経営計画とは、経営者の理念・ビジョンを実現するための脚本のようなものです。つまり、経営計画が実現していく過程で、計画通りの利益を稼いで、キャッシュを潤沢にしながら、思い描くように会社は発展成長していきます。

それは、経営者の理念・ビジョンという「論語」と、利益・キャッシュという「算盤」とが、経営計画の実現過程で融合していく姿です。

企業経営の王道ともいえる「論語と算盤」ですが、一見相反するように見えるこの二つの概念が、経営計画を介することにより、見事に相互補完していくのです。その結果、経営者としての快楽の追求が実現していく。

資本主義社会という大きな舞台で、社員とその家族を守っていくためには、経営者たるもの、胸を張って、「キャッシュの増加 → 会社の成長発展」という快楽の追求の手を緩めずに突き進んでほしいものです。

あなたは、経営者としての「快楽」をとことん追求することに、苦労を厭わないですか?