今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第42話] 今のままでは経営者は「経理」を軽視せざるを得ない。でもそれでいいのですか?

クライアント先で、業績を見える化するための仕組み構築の御指導を行う中で経営者や経理部長にヒアリングしていると、いろいろなお話を聞くことができます。

その中で、経営者からは「ウチの経理は期待通りに動いていない。」という不満をよくお聞きします。一方で、経理部長からは「ウチの社長は我々の働きを認めてくれていない。」という不満をよくお聞きします。要は、お互いに噛み合っていないのです。

これは多くの会社で頻繁にお見受けする光景です。ただし、頻繁に見るからと言って、このまま放置していいという訳ではありません。

どんな経営者でも、社員には任せた仕事をまっとうにこなし、期待通りの働きをしてもらいたいものです。一方で、どんな社員でも、経営者からは認められたいものです。しかし、両者の間に大きな溝が横たわっているのが現状です。

なぜでしょうか。なぜ、こういった溝が生まれるのでしょうか?

その原因を見出そうとした場合、両者が置かれている構造と、それぞれの構造が持つ問題点を一段高い視点から俯瞰すると見えてくるものがあります。

まず、経理が置かれている構造を見てみます。

上記の通り、経理の主たる任務は、第一義的にはビジネスの動きを月次単位で数字でまとめ上げて、月次損益をはじき出すことです。これを12カ月積み上げていきます(これが全てではありませんが)。そして、12か月間の損益をベースに税金の額を算定し、納税のお膳立てを行うのです。すべての会社の経理は、例外なくこの仕事を行っています。

もちろんこの仕事だけにとどまらず、経営判断に役立つ経営数値をタイムリーに提供することに主眼を置いている経理も存在します。ただし、残念ですが、そうしたケースは少ないです。

次に、経営者が置かれている構造を見てみます。

経営者は自社のビジネスを発展成長させるべく24時間365日戦っています。自社の発展成長のために、全方位的にアンテナを張り巡らせて情報をキャッチしようとしています。顧客からの情報、仕入先からの情報、同業からの情報、株主からの情報、社内からの情報、等々です。

つまり、経営者にとっては経理から提供されてくる情報は、経営判断のための材料の一つとして、経営者のアンテナに引っかかる数多くの情報の一つに過ぎないのです。

経営者はその置かれている構造の中で、「環境激変に対峙しながら、永続的な企業存続を図るための経営判断を常に積み重ねていく」ことを求められています。

そして、経営者は企業存続のためにはあらゆる選択肢を検討することが求められます。反社会的な行為は論外ですが、企業存続のためには、視点の高い経営者であればあるほど、まさに清濁併せ呑むという経営判断を表情一つ変えずにやってのけます。

日々、そういった構造に身を置いている経営者が、過去データを取りまとめて納税額を確定することに主眼を置いた経理にどれほどの価値を認めるでしょうか。

経営判断には未来の時間軸しか存在しません。その経営判断材料の出し手として経理が頼りにできないとなると、経営者は自らの「経験と勘」に頼るようになるのは必然です。過去データを取りまとめる経理よりは、今まで数々の修羅場を乗り越えてきた自らの経験と勘の方がよほどアテになるのは当然と言えます。

ここでもう一度考えてみます。本当にそう言えるでしょうか?

経営者が過去データを集積するだけの経理をアテにしないのは必然です。だからといって、経営者自らの経験と勘に頼るだけで、この環境激変の時代を無事に乗り切っていけるでしょうか?経営者自身がかつて体験したことのない出来事ばかりが頻発する現代です。経験と勘に頼る経営が早晩通用しなくなる時期が到来するという仮説を立てておいた方が現実的です。

ここまでくると、過去データを集積するだけの経理は頼れない。かと言って、自らの経験と勘もこれからの時代は通用しない。ではどうしたらいいのか?となってきます。

経営者も経理も、それぞれの置かれている構造が持つ問題点の抽象度を高めて、共通項を探っていくのです。それにより活路が開けてくるのではないでしょうか。

つまり、経営者が「経理は過去データを集積するだけだから頼れない。だから、自らの経験と勘でやっていく」というのは、経営者自身が勝手に作った思考上の固定点(つまり、思い込み)であり、これを打破すれば良いのです。

経営者がいくら経験と勘に頼ったところで、環境変化に対応しきれなくなるのはもちろんのこと、そもそも、諸々の関係者(顧客、社員、取引先、株主、債権者等々)にビジネスを言語化して伝え切れるわけがありません。やはり、会社とその関係者を繋ぐ共通言語は数字なのです。

つまり、経営者は数字という共通言語を操ることにより、関係者との関係性を維持していく必要性が間違いなくあります。それなくしては、関係性の維持は不可能です。そして、その共通言語たる数字を取りまとめられる適任部署は、正に経理です。

つまり、経理が未来予測が可能となるデータを出せるように、経理業務プロセスを変革するのです。

一方で、経理が「納税額を正確に計算するための月次決算こそが最優先の役割である」と捉えるのは、こちらも同様に自身(もしくは会社)が勝手に作り上げた思考上の固定点(つまり、思い込み)であり、これを同様に打破すれば良いのです。

これは至ってシンプルです。経理としては、経営者が関係者との関係性を維持できる共通言語を提供することです。これを実現できれば、同じ共通言語が経営者にとっての経営判断材料としての機能も兼ねることになるので、結果的に、経営者は経理をアテにするようになり、必然的に経理を評価するようになります。

このように抽象度を高めてみることにより、経営者と経理の構造が持つ問題点の共通の方向性が見えてきます。

ここで補足しますが、この経理業務プロセス変革の号令を掛けるのは、あくまでも経営者の役割です。

経営者がビジョンを実現するためには、数字という共通言語で経営判断を行い、かつ関係者との関係性も維持する。そのためには、経理業務プロセス変革の号令もかける。これが相まって、会社はビジョン実現に向けて長期的に存続していくのです。

以上のように、多くの中小企業の経営者が経理を軽視せざるを得ない実態が、180度転換するのです。

あなたが経理を軽視し、自らの経験と勘に頼った経営をしているとしたら、自分で自分の首を絞めているのと同じです。あなたに対して、経理が経営判断材料を提供するのは十分可能なことですし、それをやらせるのも経営者としてのあなた自身の責務です。

その結果、あなたは経理に満足し、良い評価を与えることが出来るようになるのです。