今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第44話] すでに資金調達の成否の二極化が始まっている。この流れを甘く見てはいけない。

当社が経営コンサルティング会社であること、そして、私が公認会計士でもあることからでしょうか、企業経営と数字を結び付けたテーマのセミナー案内が連日のように届きます。その中でも特に多く見受けるテーマが、資金調達です。

例えば、「資金調達につながる経営計画策定支援」とかいったセミナータイトルです。(このテーマであれば、ウチもやってるよ)と思いながら、内容には一通り目を通します。参加するしないは別として、マーケットの状況を垣間見るヒントになるからです。

経営者にとって資金とは何ぞや、と考えた場合、「資金ショートしたら企業は倒産する」というトートロジー的命題(反駁不能な真として成立する命題)が真っ先に出てきます。

このように、企業経営にとって切っても切れない関係にある資金に関する命題「資金ショートしたら企業は倒産する」がいまだに色褪せないゆえに、冒頭に紹介したようなセミナー案内が数多く舞い込んでくる訳ではありません。

実は、資金調達そのものに関して、現在ある潮流の変化が起きているのです。それは何かというと、来年3月(2019年3月)に予定されている「金融検査マニュアルの廃止」です。

金融検査マニュアルの概要と、それが廃止されることのインパクトを以下簡潔に紹介します。

金融検査マニュアルは、銀行や信用金庫といった金融機関が融資審査を行う際の、ガイドラインとなる重要なものです。金融庁から営業許可を得て金融業を行っている金融機関としては、この金融検査マニュアルに沿って融資判断をすることを金融庁から要請され、現にそうしてきたのです。

実はこの構造にも問題点があり、金融機関の規模や融資姿勢に関係なく、融資判断が画一的になり過ぎるという弊害が生じてきたのです。

金融機関により、地域性や融資スタンスが異なって然るべきなのに、金融検査マニュアルを共通的な判断基準として運用してきたため、金融そのものが本来期待される機能の一つである資金循環が十分に発揮されない状況に陥ってきたのです。

この金融機能の閉塞状況を打破するための施策が「金融検査マニュアルの廃止」という訳です。そして、このインパクトは、当然の如く、資金貸し手である金融機関と資金借り手である企業に及んできます。

金融機関としては、独自の融資基準(もちろん、全くゼロから作るのではなく、従来の融資基準がベースになることは予想できます)を構築することになります。ここに、従来まで運用されていた金融検査マニュアルという後ろ盾がなくなる訳なので、今後どうしていくのかは、現在各金融機関で検討を重ねているところでしょう(横並び的な対応も予想できますが)。

方向性として明確に言われていることは、「融資先の事業の将来性を明確に把握する。それは従来の決算書の数字だけでなく、それ以外からも将来性を可能な限り判断できる情報を入手することになる。」ということです。

企業としては、今まで以上に金融機関との「対話」を増やす必要に迫られます。それは経営者と金融機関担当者との単なる雑談とは次元の異なる、もっと深く入り込んだ言葉のやり取りになりそうです。詳細は現時点では明らかにはされていません。

上記のような流れの中で、経営者は果たして金融機関とより親密な関係性を築いていけるのでしょうか?現時点で既に良好な関係性を維持している経営者は「可」でしょう。一方で、現時点で良好とはいえない関係性に終始している経営者にとってみれば「否」でしょう。

たとえば、かつて、雨降りだったにもかかわらず傘を貸してもらえなかったことが遺恨として残っている、といった具合です。こうした金融機関に対してある種の壁のようなものを意識の中で持っている経営者も少なからずいることでしょう。

経営者が100人いれば、金融機関に対しての思いは100通りのものがあるであろうことは想像に難くありません。

そうした現実を踏まえてもなお、経営者たるもの、金融機関との相互信頼のもとに事業継続のための資金調達ルートを構築しておくべきです。

なぜなら、企業にとって雨はいつ降るかもわからず、かつ、土砂降りの可能性だってあるからです。その時に、関係性が良好であるにこしたことはありません。良好とはいえ必ず傘を貸してくれるとは限りませんが、良好でなかったら傘を貸してもらえる可能性は限りなくゼロに近くなるだけですから。

それは正論なのは分かるけど、ウチのメインバンクはどうも肌が合わないから、いつ起きるかも分からない資金調達のために、こちらから折れて金融機関と仲良くするのは社長である私の流儀に合わない、という経営者もいるかも知れません。

ただし、そのコメントそのものが、ルサンチマン(弱者の逆恨み)であることを知るべきです。自己重要感を目一杯前面に出して、好き嫌いをとやかく言っている場合ではない筈です。

仮に、過去に金融機関との間に生じた遺恨が、今後の信頼関係構築の足かせになりそうだとしても、経営者が自己重要感を前面に出してそこに焦点を当てて資金調達の道を塞いでしまうべきではありません。

なぜなら、会社には守らなければならない社員もいるし、その社員には家族だっているのです。

経営者たるもの、自己重要感を薄めて、金融機関との関係性構築を最重要経営課題の一つとして真正面から取り組んでいただきたいものです。(正に経営者しかできない役割なのですから)

さて、関係性構築と言ってきましたが、一体どうすればいいのか?という声も上がってきそうです。

毎月定期的に訪問する担当者に近況報告を行うような従来通りのやり方では、今後の事を考えた場合、効果はほとんど期待できません。

なぜなら、経営者と金融機関との共通言語に、従来では考えられなかったくらいのレベルで焦点を当てていく必要があるからです。

その共通言語とは何か?

それは数字です。

その典型が経営計画です。

経営計画なんて、今までも作っていて金融機関にも毎年出している。それで十分だろう。という声も聞こえてきそうですが、それは間違いです。

今までの作り方で作った経営計画はほぼ通用しないと考えるべきです。会社によって今までの作り方は千差万別でしょう。しかし、言えるのは、ほとんどの中小企業の経営計画は「ゴール逆算型」にはなっていないということです。

ゴール逆算型の経営計画というのは、経営者のビジョンを実現した状況を明確にイメージして、そこをゴールとして据えて、そこから逆算する形で、来年はどこまでやるか、2年後、5年後、10年後はどこまでやるか、という具合にすべてがゴールの方を見据えての計画なのです。そこには、経営者が描く事業のストーリーがてんこ盛りになっています。

その事業ストーリーがてんこ盛りの経営計画を金融機関に語り、納得してもらうのです。今までにない信頼関係を醸成していく最高の機会であるし、ツールでもあるのです。こうして、資金調達のための土壌は作られていくのです。

自己重要感を極限まで薄めて、金融機関との関係性構築に向き合っていきましょう。それが出来るか否かで、資金調達の幅は確実に広がっていきます。

そのためには、経営者と金融機関との共通言語である経営計画が不可欠なのです。ただし、世の多くの中小企業が作っている経営計画では残念ながら用を足しません。

ゴール逆算型で経営者のビジョンが時系列的にてんこ盛りになっている経営計画を作っていきましょう。

あなたは、躊躇なく自己重要感を薄めていく経営に向き合っていますか?