今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第49話] 経営者が経営指標にこだわるのはあたり前。ただし、こだわり方にこだわるべき。

経営者は様々な特性をお持ちです。特性のほんの一つの局面である「数字」という切り口で見ただけでも、数字に強い(もしくは関心のある)経営者もいらっしゃれば、数字に強くない(もしくは関心の薄い)経営者もいらっしゃいます。またその中間地点に位置する経営者もいたり、様々です。

数字に対する関心の濃淡の良し悪しは追ってお伝えしますが、まずは、ここで言っている「数字」とは、会社の業績を感覚的ではなく、客観的に把握するための媒体としての意味を持ちます。

具体的には、売上高、受注残高、原価率、市場占有率、顧客別シェア、・・・といった経営指標がこれに該当し、挙げていったら際限のないほどです。

際限のないほど無数にある経営指標ですが、経営者にとって自社の経営に必要な経営指標はそのうちのごく一部です。自社が所在する国や地域に関する指標、自社が属する業界に関する指標、自社のみに関する指標、競合に関する指標、自社の顧客(潜在顧客を含む)に関する指標、等々が挙げられます。

企業経営を進めるに当たり、感覚的か客観的かといった違いはあるにせよ、こういった経営指標が表そうとしている状況について、経営者であれば関心を持って向き合っていくべき時代です。

たたき上げで会社を牽引してきた経営者の場合、自分の頭を指さし、「データはここにある」と言わんばかりの方もいらっしゃいます。いわゆる、「経験と勘の経営」です。今までは確かにそれで通用してきたのでしょう。だからこそ、現在も会社が事業を続けていられるのです。

しかし、これだけ外部環境が今まであり得なかったスピードで激変するこの時代では、こういった経験と勘の経営では、通用しにくい状況は皆さん、実感されているのではないでしょうか。

かと言って、経営者が経営指標のみに強く偏重するのも判断を見誤る危険性があります。

数字偏重というと、かつてのプロ野球の野村克也監督のID野球を思い出します。プロ野球という一試合一試合という短期決戦を勝ち抜くためには、数字偏重も大いにありだと思いますが、企業経営は数十年に亘る存続を賭けての長丁場の戦いです。

そこには、予測困難な要素が外部環境のみならず、ありとあらゆる局面で存在しています。数字だけで解決するものではありません。さはさりながら、数字は重視しなければならない時代に入っています。そこに、適宜経験と勘を加味していく感じでしょうか。

たとえば、売上高であれば、次のような検討が積み重ねられるのではないでしょうか。

「売上高が前年同月比で10%超減少している。これは、営業利益率2%台の赤字候補商品のテコ入れが甘い可能性があるので、改めて強力にテコ入れすべき。」

「市場占有率が5%縮小している。これは、競合が新商品を連続して出していることが要因。わが社も新商品を早急に投入して、シェア下落を食い止めるだけでなく、アジア地域のニーズを早急にリサーチして、まずは世界規模でのシェア20%確保を目指すべきだ。」

このように、経営指標によった検討が常に行われて然るべきです。そのためには、やはり経験と勘だけでは太刀打ちできないことが明らかです。

以上のように、経営者が経営指標にこだわるのはごくごく当たり前です。

しかし、留意すべきなのは、そのこだわり方です。

すなわち、経営者自身が、「経営指標のデータ作り、その分析作業、分析結果を受けての対策考案、対策実施」等の一切合切を自分の仕事として掌中に収めてしまうのは非常に危険で、それは避けなければいけないということです。

なぜなら、これらの一切合切を経営者が「俺がすべて見えているから」などという理由で、一気通貫でやってしまったら、まずは、社員が育つ機会を奪ったことになります。

単純な例示として、上記に掲げた「経営指標のデータ作り、その分析作業、分析結果を受けての対策考案、対策実施」ですが、これだけとっても、それぞれの役割を社員に担当させた場合の効果を想像してみてください。

この役割は1年に1回どころか、毎月発生します。最初は経営者から見たら、とても頼りない動きかも知れませんが、1カ月、2カ月経つと見違えるような信頼感が出てくるハズです。

それはそうです。人間は学んで成長する生き物だからです。

これに対し、「社長がやったら簡単にできる」と通説ではよく言われていますが、それも怪しい限りです。なぜなら、社長は極めて多岐に亘る役割(営業戦略、社員対応、金融機関対応、クレーム対応等々)を担っているので、「経営指標のデータ作り、その分析作業、分析結果を受けての対策考案、対策実施」を一手に引き受ける余裕など皆無だからです。

なので、「社長がやったら簡単にできる」という通説は嘘で、「社員がやるべきで、社長はやってはいけない。社長がやるべきは、社員に指示を出し、結果報告を受けて、最新の状況を常に把握し、それを受けて指示を出すだけ」なのです。

ひたすら、このサイクルを繰り返していくだけなのです。

間違っても、経営者が「経営指標のデータ作り、その分析作業、分析結果を受けての対策考案、対策実施」に没入してはいけません。

現代のこの世界の構造を俯瞰して見ますと、行動よりも思考が先行します。そして、思考よりも言語が先行します。

分かりやすく表記すると、「 言語>思考>行動 」となります。

今回のケースに当てはめると、会社にとって必要な方向性を経営者が言語化して、社員に伝える。

それを受けた社員は、自ら思考して、今この時にやるべき事は何かを考える。そして、それを自ら行動に移す。

つまり、経営者が会社で担うべき役割は、「会社にとっての方向性を言語化すること」だけなのです。

以上の状況は、経営者がいて、その経営者が指し示す方向性を実現する社員が複数いる、しかも、部長、課長という組織的階層を伴った、いわゆる組織の態をなす会社を想定しています。

では、こういった役割分担できるほどの組織的規模感のない小規模会社はどうすればいいのだ、という声も聞こえてきそうです。

その場合は、まずは、あるべき組織の態をなした会社組織構造を、自社に当てはめた形で明確に認識する。その上で、現状とのギャップを知る。

次に、そのギャップを埋める為の計画を立てる。例えば、いついつまでにどのクラスの社員を何名採用するか、といった人員計画。

組織の態をなすためには、売上規模、人員規模、設備規模、諸々の要素を底上げしていかなくてはならないため、そのための資金が必要。そのための資金計画。

上記さまざまな計画を一足飛びに実現することは現実的ではなく、段階を踏んで3~5年の時間軸で向き合っていくことが考えられます。そのためには、初期段階では、外部の力の利用も十分に検討する必要があります。

つまり、多少背伸びをした組織は構いませんが、無理な背伸びをした、いわゆる身の丈に合わない重たい組織は、絶対に避けたいところです。

2~3億円企業が、一足飛びに10~20億円の企業規模体制を自前で構えるのは、この時代においてはあり得ないことです。

ステップを一段ずつ踏み上げていくべきです。そのために利用できる外部の力は、探せば幾らでも見つかります。

会社を組織の態にまで牽引して行くのに必要なのは、経営者の鮮明なイメージです。あとは、ステップ・バイ・ステップでぶれずに進んでいくだけです。そのための手法が上記でお伝えし、かつこのコラムでも幾度となくお伝えしている「経営計画の作成とモニタリング」なのです。

あなたは、会社における役割を熟知した上で、会社を社員を成長させるべく経営指標に向き合っていますか?