今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第51話] 経営者は賛否両論を意識的に作り出していくべき。なぜか?

いま最も旬な話題の一つは、何と言っても、ワールドカップサッカーでしょうか。

そこで、今回冒頭に採り上げるのは、数日前の予選リーグ最終戦(ポーランド戦)での戦い方についてです。

予選リーグ第3戦でポーランドに1-0で先行されていた後半29分あたりから、日本は自陣内でパスを回し続ける戦術に切り替えて、そのまま1-0で敗戦のままゲーム終了しました。

結果的に、予選リーグ2位を争っていたセネガルに唯一フェアプレーポイント(イエローカードをもらった数)が僅か2ポイント勝ったため(パス回しはこの2ポイントを死守するための戦術だったのですが)、予選リーグ2位を獲得し、決勝リーグに進めたという流れです。

試合翌日はどのチャンネルを回しても、報道番組でコメンテーターが賛否の持論を披露する弁論大会の様相でした。それはさて置き、今回の西野采配については、良いも悪いもありません。良いとか悪いとかは、受け取る側の評価(言わば、反応の一つ)に過ぎず、そこに正解など存在しないのです。

言えることはただ一つ。

「日本が予選リーグ最終戦で、パス回しを断行することにより、1-0の敗戦にとどまり、その結果、決勝リーグに進出した」という、この現実だけなのです。

日本チームの指揮官でもある西野監督は、1-0と先行された試合の挽回を目指すことなく、この1-0という得失点差を維持すること、イエローカードをこれ以上もらわないこと、それだけを目指す戦術について、自身に「本意ではなかった」を言わしめました。

結果、決勝リーグに進んだものの、世間では賛否両論が巻き起こっている訳です。

「組織の指揮官が考え抜いて執った行動について、周囲から賛否両論が巻き起こる」というケースを、企業経営に当てはめるとしたらどうでしょうか?

確かに、今回の西野采配は、現状打破に挑み続けるもなかなか状況を好転できないでいる企業経営者の立場に、実は非常に当てはまるケースです。

さて、経営者は四六時中、自社の経営が良くなっていくことをあれこれと考えています。

すなわち経営課題とも言えますが、「売上をいかに増やすか(売上の問題)」、「社員の意識をどうやって高めていくか(人の問題)」、「資金繰りの不安をどうやって解消していくか(資金繰りの問題)」の3つです。

これらの3大経営課題に対し、戦略を立てていく訳ですが、ここで言えることは、経営者の視点が高いか低いか、言い換えれば、思考の抽象度が高いか低いかで、状況は全く変わってくるということです。

先ず、高視点(高抽象)の経営者の場合、自社が置かれている業界の構造、および自社の状況を俯瞰して見ることができるので、俯瞰した上で、戦略を打ち出します。

もちろん経営者にとってはチャレンジングであることは間違いありません。しかし、今自社が置かれている業界の構造の枠内でいくら戦略をひねり出したところで、競合も遅かれ早かれ同じことを考えついて、結果的には共に埋もれていくだけで、生き残っていくことは至難である。つまり、そこに活路はない。ということが見えているのです。

だからこそ、自社が今置かれている業界の構造を突き抜けた視点の高さ、抽象度の高さで戦略を立てていくのです。

一方、逆も真なりで、低視点(低抽象)の経営者の場合、自社が置かれている業界の構造の枠内でしか、物事が見えていないので、その枠内でしか戦略を思考できません。その場合、同じような戦略を競合が打ち出すのは必至で、共に埋もれていくのは時間の問題です。この場合、活路は時間の経過と共にふさがれていきます。

上記のいずれの場合でも、従来とは異なることをやるので、間違いなく周囲からは賛否両論が巻き起こります。

そこで、低視点(低抽象)の経営者は、真正面から賛否を受け止めます。なぜなら、この経営者は賛否を発する周囲と同じレベルの視点・抽象度に立っているので、結果的に波風がなるべく少ない方向性(例えば多数決的な)を選択しがちです。

一方、高視点(高抽象)の経営者は、巻き起こっている賛否を、あくまでも周囲の「反応」として認識し、必要に応じて戦略に軌道修正をかけていきます。しかも、穏便な方向性を模索することなど決してなく、さらに高視点、高抽象の思考を加えていくことに全力を尽くします。

ここで、留意しておくべき点が一つあります。

高視点・高抽象の経営者が賛否両論を意に介さずに戦略を立てて、実行に移していく場合、社員全員を納得させることに最大限の注意を払うべきであり、しかもその努力を後回しにしてはいけません。

なぜなら、経営者が打ち出した高視点・高抽象の戦略を実行していく主役は社員だからです。

それを怠ると、周囲の賛否を「反応」として意に介さないのは経営者だけということになり、肝心の実行部隊の社員は賛否を真正面から受け止めてしまい、経営者の戦略に対し疑心暗鬼に陥ることになります。

高視点・高抽象の経営者は、自社を存続させられる素晴らしい素養を持っているので、それを自分一人に留めることなく、その素養を社員に伝播させていく努力を常に続けていただきたいものです。

あなたは、業界の常識を俯瞰した行動を四六時中とっていますか?しかも、その高視点・高抽象の思考を社員にも共有化させることを怠っていませんか?