今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第52話] 目先の資金確保に注力することは極めて地味。だが、そこに向き合わず企業成長を云々するのは単なるファンタジー。

先週末に発生した西日本での未曽有の豪雨被害ですが、お亡くなりになられた方々、および被害に遭われた方々におかれましては、心よりお悔やみ申し上げます。

今回の自然災害ですが、自然という領域で、想定外の牙がむかれた時の怖さをまざまざと見せつけられました。

「備えあれば憂いなし」という言葉が昔からあります。

もう少し具体的に言うならば、災害時に自らの命を守る行動として、「避難ルート、避難場所の定期的な確認」、「災害時の行動の明確化、家族との共有化」、「非常食や水の備蓄状況の定期的確認」などを怠りなく励行することが被害の程度を最小限に食い止められるという防災に関する言説の一つです。

今回の未曽有の豪雨は、この言説では到底片付けられない圧倒さを感じる出来事でしたが、同様の想定外の出来事、しかも圧倒的レベルの想定外さを、「企業経営という領域」に当てはめたらどうでしょうか?

企業経営にとっての「備えあれば憂いなし」の備えとは何を指すのでしょうか?

それは、「資金調達ルートの確保」です。

ただし、一日二日で出来るような代物ではありません。

詳しいことは追ってお伝えしていきますが、まずこの「資金調達ルートの確保」を怠っていた場合の怖さを事例で示すと以下の通りです。

  • 主要工場が(今回のような)自然災害で操業不能に陥り、中間製品を急遽外部購入に切り替えることになっても、その外部購入資金の融資を「受けられない」。
  • 大口得意先が突然倒産し、多額の売掛金の回収不能が生じ、運転資金ショートに陥っても、それをカバーできるだけの融資を「受けられない」。
  • 突然生じた風評被害により売上が激減し、あっという間に運転資金がショートし、それをカバーできるだけの融資を「受けられない」。

など。

まさに、資金調達という舞台で、陸の孤島に置かれたような状態になります。まさに孤立無援状態です。

これは企業側からすると、「金融機関は晴れの日には傘を貸そうとするが、雨降りの時、特に土砂降りの時は傘を貸してくれない。」というネガティブ表現にも繋がってきます。

一方で金融機関側からすると、貸せる企業には貸したいのです。この場合の貸せる企業に儲かっている会社、伸びている会社が含まれることはもちろんですが、そうでない会社、例えば赤字会社でも、金融機関から見たら、「今現在は赤字だが、事業内容に将来性があり、今後伸びていくことが予測できる」ということであれば、たとえ赤字会社でも、融資したい会社に含まれるのです。

このことを踏まえた上で、改めて「資金調達ルートの確保」とは何かをお伝えします。

それは、企業から見た場合、「金融機関と太い信頼関係を構築すること」です。間違ってほしくないのは、決して癒着を意味しているのではないということです。

どのようにして太い信頼関係を構築するのかというと、主には次の通りです。

金融機関と付き合いを始める際には先ず、経営者の理念・ビジョン、それを踏まえた事業計画を金融機関と共有化します。その上で、

  • 事業計画の進捗状況を毎月報告する。
  • 計画を下回った時は、その理由、および翌月以降に未達を挽回するための施策と行動計画を共有化する。
  • 上回った時も、その原因を共有化し、さらに伸ばすことの施策と行動計画を共有化する。

以上のことを粛々と少なくとも半年は毎月行っていくのです。大事なのは、この毎月の金融機関への状況報告を資金ニーズがあってもなくても誠実に継続するのです。ただ、それだけです。

しかし、資金調達先が金融機関にほぼ限られているにもかかわらず、世の中の中小企業のほとんどは、この関係性強化を怠っています。理由は様々でしょう。

  • 経営者にその必要性を感じる思考力が欠如している。
  • 資金ニーズが生じた際に接点を持てばいいと思い込んでいる。
  • 顧問税理士や顧問会計士にその思考力が乏しく、経営者に必要性を啓蒙することすら想起できない。

など。

では、企業としては、金融機関と太い信頼関係を構築しておけば100%心配ないのか、というとそうではありません。

金融機関は融資先企業の事業の将来性を判断基準にして融資を行っていく方針です。金融庁が強く推し進めている国策ともいえる流れです。

これを「事業性評価融資」といいます。

つまり、太い信頼関係は、金融機関に事業性評価を迅速に実行してもらうための礎なのです。

さて、この事業性評価融資ですが、その特徴としては、融資先企業の将来性を見極めていく審査になるので、審査側には従来よりも高レベルな審査体制が要求されます。そのため、企業側が提出する融資申請資料は企業の将来性をつぶさに理解できるものでなければなりません。こちらも従来よりも高レベルな内容が要求されます。

このように事業性評価融資は、企業側にも金融機関側にも、従来よりもさらに企業及びその企業が営む事業の本質と向き合う姿勢が要求されるのです。

金融機関側はこの事業性評価融資の目線に耐えうる企業こそが、たとえ今現在赤字企業であっても資金を融資すべき企業であると考える訳で、その融資姿勢こそが、日本の中小企業を活性化させる呼び水になるというスタンスを持っています。

企業の資金調達面をサポートしているいわゆる財務コンサルタントも、今後は、この事業性評価融資に着目していく必要があります。そのことが中小企業及び金融機関をも活性化させる社会的価値のある役割になってくるものと確信しています。

仕組みで会社を強くする、とか、唯一無二の商品サービスを作り上げて競合に抜きん出るという戦略も大切かも知れませんが、その前に先ずやるべきことがあります。企業でいうところの血液が足りない時にはいつでも輸血してもらえる、というバックアップ体制を盤石にしておかなければなりません。

仕組みだとか、唯一無二の商品サービスだとかは、資金調達ルートを構築できた後の話です。それ無しでは、単なるファンタジーに終わるだけです。

今回お伝えしてきたように、資金調達ルートの確保は非常に地味な努力の積み重ねです。ほとんどの企業が継続できていません。だからこそ、継続する必要性があり、価値があるのです。シンプルですが、生き残るための秘策です。ぜひとも、取り組んでいただきたいものです。

視点の高い経営者は、この至って地味な資金調達ルートの確保(いわゆる“守り”)と、仕組み構築や唯一無二の商品サービス開発(いわゆる“攻め”)といった一見相反することを何気ない顔で、同時に進めています。現代哲学でいうところのスキゾフレニア(分裂症)です。

あなたは、資金調達ルートの確保という極めて地味な努力を、怠りなく続けていますか?