今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第54話] 西日本豪雨に見るビジネス上のリスクマネジメントの根幹とは?

今日(7月24日)で西日本豪雨から2週間以上経ちます。

住む場所を失った被災者の方々の窮状を見るにつけ心が痛みます。酷暑の中ですが、日常生活の復旧が迅速に進むことを願って止みません。

この西日本豪雨の中で、直接的な土砂洪水被害を受けなかったものの、大量の土砂や流木が河川を経由して海に流れ込んだ影響で、沿岸の養殖カキや魚が壊滅的な被害を受けた業者の方々がいます。ニュース報道によると、復旧するまでの道筋が現時点ではなかなか見えないとのことです。

こうした報道を見るにつけ思うことは、これが例えば台風であれば、事前に進路予測情報が手に入るので、可能な限り、生簀(いけす)を多少でも安全な場所に移動するなりして、事前対策を打てますが、今回は想定外の突発的な集中豪雨だっただけに、そこまで手が回すことができなかったのでしょう。

つまり、養殖業者の方々にとっては、創業時から何十年にもわたり培ってきたリスクマネジメントに関する経験則やノウハウが適用できなかったことが推測できます。

この過去からの経験則・ノウハウが通じない事態に備えて、経営者としてどのように対処していくべきか、すべての企業経営者に通じることとして、以下お伝えしていきます。

現代哲学の巨人の一人でもあるウィトゲンシュタインは「語り得ぬことについては沈黙せねばならない」と言っています。

この世界は言葉でできており、すべての構造が何らかの言葉によって定義づけられており、人間はその言葉に定義された構造の中で生きている。だから、言葉によって定義されていない事物・現象、つまり言語化されていない事物・現象を言語化することはできない。つまり、沈黙せねばならないと言うのです。

しかし、残念ながらいかに現代哲学の巨人といえども、ウィトゲンシュタインのこの言説をそのまま企業経営に当てはめることはできません。

企業を取り巻く環境変化が大小さまざまなレベルで、不規則かつ矢継ぎ早に襲ってくる現代において、言語化されていない事物・現象をすべて沈黙していたら、企業存続など夢のまた夢、あっという間に倒産に追い込まれてしまいます。

巨人といわれた哲学者ウィトゲンシュタインもそこまでは見えていなかったのではないでしょうか。

では、従来の経験則・ノウハウが全く通用しない想定外の事象(ウィトゲンシュタインが言うところの、言語化できないことによる語りえぬこと)に対して、経営者はどのように対峙していくべきでしょうか。

そのためには、自社の業界にフォーカスして、業界の構造が抱える問題点を探り出す必要があります。しかし、このままでは問題点を浮き彫りにすることはほぼ期待できません。

なぜなら、今のままでは思考そのものが業界の構造という特定の枠内にとどまっているからです。

では、一歩進めて、どうすればいいのでしょうか?

業界の構造が抱える問題点を探り出そうとしていること自体、今までその業界に身を置いてきた数十年間に亘り、探り出したい問題点が全く見えてこなかったということの証左です。

ということは、自社が置かれている業界にいくらフォーカスしても無理ということです。つまり、今まで見えてこなかった問題点が突然見え始めるなどということはないのです。

その思考停止状態を打破して、業界の構造を知るためには、その構造から大きく外に視点を移して、そこから業界を俯瞰するしかないのです。

このように、業界の構造が抱える問題点を把握するためには一段も二段も視点を上げて、自社の業界を俯瞰するしかありません。

その際、経営者は自己を極限まで薄めて(つまり、自社にまつわる一切のこだわりを捨てきった意識のもとで)、俯瞰するのです。

そうすることで、業界の構造に何の違和感も持たずどっぷり浸かってきたこの数十年間、見えていなかったモノを感じることができるし、語られていなかったコトを感じることができるのです。

勘違いしていただきたくないのは、決してスピ系のことをお伝えしているのではなく、経営者としての俯瞰力の重要性を言いたいがためです。

では、視点を一段も二段も上げるというのは、どういうことでしょうか?

例えば、「自社とは全く関連性のない異業種を探求してみる」、「自社とは全く関連性の無いマーケットを探求してみる」、「地政学的に、自社とは全く関連性のない国や地域を探求してみる」などがあげられます。もちろんですが、正解はありません。

要は、一切の固定観念を持たずに、現状を俯瞰するための意識の置き処を設けるということなのです。

ただし、以上のことを実行できたとしても、必ずしも成果に結び付くわけではありません。保証などどこにもないのです。

ただし、以下のことは唯一言い切れます。

  • 業界の構造の枠内にとどまっている限り、今まで見えてこなかったモノがこれからも見えることはありませんし、語られてこなかったコトがこれからも聞こえることはありません。
  • 経営者が俯瞰力を身に付けていくことは、企業としても活路を見出せる極めて有効な方法です。

あなたは、会社を守り抜くために、俯瞰力を身に付けていく覚悟がありますか?