今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第59話] 「寝ているように経営する」、この真意は?

現在、スポーツの祭典ともいえるジャカルタ・アジア大会が日本人の大活躍もあって大盛り上がりです。個人的には、楽しみにしていた陸上競技が先週土曜日(8月25日)からいよいよ始まったので、連日食い入るように観ています。

そんな中、一昨日(26日)の女子マラソンを観ていた時、解説者の高橋尚子さん(Qちゃんの愛称で日本中から親しまれている往年のマラソン名ランナーで、シドニー五輪マラソン金メダリスト)がコメントの中で何気なく言っていた言葉がとても響きました。

それは、「選手の皆さんは、寝ているように走ることです。そうすれば、いざという時の集中力に繋がるからです。」というフレーズでした。

このフレーズ、企業経営にそのまま当てはまるものとして、素晴らしい名言だと一人で勝手に合点がいってしまいました。

今回のコラムはこの事についてお伝えしていきます。

経営者、特に中小企業経営者は、自社の存続を図るために必死に目先の売上を追い求めます。

たとえ経営者本人がビジョンを持っていたとしても、目先の物事をも決して疎かにしません。

それはそうです。

目先のことにお構いなしで、ビジョンだけを追い求めるだけだったら、場合によっては、資金が枯渇して資金ショートをきたしてしまう可能性もあり、そんなことにでもなれば、その企業はマーケットから強制退場せざるを得ないからです。

過去のコラムで何度かお伝えしているように、経営者は短期的視点と長期的視点という相反する思考を常に並行させて経営に取り組む、という役割を担っています。

短期的視点と長期的視点の両者を兼ね備えていなければならない経営者ですから、受注獲得に向けてすべての行動を一点に絞っていく努力をします。

これも当然の役割です。

ただ、この場合の努力の仕方について、改めて見直してみる必要があるのではないでしょうか。

たとえば経営者Aは、「俺が俺が」という姿勢で取引関係者の利などそっちのけで自社の利だけにフォーカスした行動をとり、受注獲得に至ったとします。

一方で経営者Bは「三方よし」という姿勢で、取引関係者全員に利が生まれるように行動して、受注獲得に至ったとします。

既にお分かりのように、経営者Aの場合、成功は決して長続きしません。なぜなら、「もう二度と一緒に仕事をしたくない」と誰もが思うからです。

逆もまた然りで、経営者Bの場合、自社の利はさほどではないにせよ、成功が長続きする可能性が大いにあります。なぜなら、「今後も一緒に仕事をしたい」と誰もが思うからです。

別の見方をするならば、経営者Aは意識が自社の利にしか向いていない猪突猛進型で肉食的タイプです。一方、経営者Bは意識が自社だけでなく、他社の利にも向いている、いわゆる固定点(こだわり)放棄型で草食的タイプです。

さらに、人間の立ち所作に例えるならば、経営者Aがカッと両目を見開いたギラギラした状態とするならば、経営者Bは半分目を閉じたうつらうつら寝ているような状態とも言えましょうか。

まさに、経営者Bは冒頭に紹介した高橋尚子さんの「寝ているように走る」状態に相当します。

「寝ているように経営している状態」を「一定の固定点(こだわり)を一切持っていない状態」に例えると、次のような表現ができます。

『ここが勝負どころという自社の命運を賭ける時だけ全知全能を覚醒させて、それこそ、呼吸するのも忘れてしまうくらいの究極の集中力でその勝負どころを逃さない。その代わり、平常時は寝ているような状態で、自社へのこだわりを一切持たず、仲間の利にフォーカスし続ける。』

こうした姿勢が取引関係者、社員等の信頼・信用を勝ち獲らない訳がありません。

その信頼・信用が一つ一つ積み重ねられていくことが常態化すれば、企業存続の永続化も現実味を帯びてきます。

まさに「千里の道も一歩から」です。

あなたは、いざという時に全知全能が発動できるように、平常時は固定点(こだわり)を一切設けずに、経営に取り組んでいますか?