今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第60話] 古いものはこれ以上古くはならない。それはむしろ武器になる。

夏まだ真っ盛りの先日、地元静岡を全国に広めてくれた立役者でもある、さくらももこさんが53歳の若さで亡くなりました。さくらももこと言えば、その代表作「ちびまる子ちゃん」を大ブレークさせた漫画家でもあります。

私も若い頃、ほぼリアルタイムでテレビを観ていました。今さらながらですが、ちびまる子ちゃんで表現されていた四季折々の風景や、夕暮れ時のシーンなど、何とも言えぬノスタルジックな気分に浸っていたものです。

さて、違う趣をもったノスタルジックなものと言うと、先日ニュース番組でも取り上げられていましたが、「ストップモーション・アニメ」という撮影技術があります。出来上がった作品を観るととても不思議な感じがします。

ストップモーション・アニメは、人形などの被写体を少しずつ動かして撮り、まるで動いているかのように見せる撮影技術です。コマ数が膨大なので、必然的に人手もコストもかかる手法でもあります。つまり、アナログ的発想で考えられた手法です。(現代の総デジタル的発想とは真逆の発想とも言えます。)

映像技術が進化している昨今、コンピュータを駆使すればいかようにでも画像作成できる映像技術には一切頼らずに、むしろその真逆の手法をとるストップモーション・アニメは異彩を放っているかのようです。

ビジネス界は生き馬の目を抜く世界です。

経営者は世界の誰も手を付けていないものを追い求めることがあたり前のようになっています。その良し悪しは抜きにして、技術進歩が人類にとっての自然の流れであるのであれば、「ひたすら斬新なものを追い求める」という世の流れは否めません。

そういった基本的な潮流の中で、ストップモーション・アニメのように、デジタルとは真逆のアナログ的手法に敢えてトコトン固執することは、世の中の技術進歩の流れに真っ向から逆らうことでもあります。

そして、そこに特別な意図が込められているするならば、それは、極めて戦略的な「新しきものの否定」であり、その結果、逆に世界の注目を浴びて、競合を凌駕することに繋がっていくのです。

その一面を捉えるのならば、「新しいものを盲目的に追求する姿勢そのものを否定することで、『異次元の新しさ』を手に入れている」とも言えそうです。

「異次元の新しさ」に固執することが、逆に周囲より目立つことに繋がり、マーケット的にはそれが武器になるというお手本のようなケースです。

言い方を換えると、これは、経営者として併せ持つべき経営スタンスともいえます。

併せ持つというのは、「世の中にない斬新なモノを追い求める一面」と、「ノスタルジックな古き良きモノに固執する一面」といった一見真逆なモノを、あたかも表裏一体であるかのように、企業経営の中で取り扱うような感じでしょうか。

さくらももこという同郷の有名人の逝去に伴い、彼女の代表作でもあるちびまる子ちゃんを久々に思い出し、そこから連想されるノスタルジックな発想は現代のデジタル社会ではむしろエッジの効いた一面を持っている、ということに思いを馳せた次第です。

新しいモノを追い求めることは必要です。しかし、それだけでは偏っているかも知れません。むしろ、古きモノの凄さに気付き、敢えてそこに固執するという思考も忘れずに、企業経営に向き合っていきたいものです。