今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第61話] 自然災害、それは経営者に壮大なPDCAを促す。

先週は、西日本の台風被害、次いで北海道の大規模地震と、大自然の無慈悲さを嫌というほど見せつけられた1週間でした。被災された方々にはお悔やみ申し上げると同時に、一日も早い復興をお祈りしています。

日本列島は地震列島とも言われたり、台風銀座の真っ只中に位置しているなどと昔から言われていますが、今さらながら自然の営みを恨みたくなる気持ちを禁じ得ません。

言わずもがなですが、自然災害はまずはその地域で生活している人々の日常生活に打撃を与えます。と同時に、その地域で事業展開している企業の活動にも打撃を与えます。

企業としては、日本という国土に活動拠点を置いている以上、どこにいたとしても自然の猛威から逃れることはできません。

であれば、PDCAという経営計画の仮説検証という切り口から、経営者としてどういった意識を常々持つべきでしょうか?

そこで、今回のコラムは、企業として、今回のような想定の枠を遥かに超えた自然災害の猛威に対して、経営者としてどう備えるか、PDCAという観点から書いてみました。(広い意味では危機管理の領域に属すると思われるかも知れませんが、そうではありません。)

私は普段、経営計画のご指導をさせていただく際に、PDCAを如何に最小の労力で最大の効果を生み出すようにするかという観点で御指導しています。

ご存知の方もおられるかと思いますが、PDCAとは「計画と実績を比較分析した結果、乖離が出ていた場合、その乖離原因を分析し、事後の改善策の仮説検証を繰り返す」という手法です。

通常の仮説検証のケースでいえば、例えば、売上実績が計画を下回っていたとしましょう。

その場合、売上の未達原因として、「競合が新商品をリリースしたのに対し、当社は特に対抗策を打ってこなかったからではないか。」という仮説を立て、「早急に新商品のリリース、もしくは既存商品のリニューアルを打って出る。」といった施策を立てたとします。

そして、その後の効果を検証した結果、効果が出ていなかった場合、仮説が誤りだったという判断をして、仮説の立て直しをします。

例えば、「売上が計画未達だったのは、当社のカスタマーサポートの対応が悪いため、顧客の不満を買い、その結果リピート率が従来以上に下がったからではないか。」と仮説を立て直し、施策として「カスタマーサポートの見直し」を立てます。その後、リピート率の改善という効果が認められたら、その仮説が正しかったということになります。

さて、今回のような過去の経験則では推し量れない自然災害をあらかじめ経営計画に織り込むなどというのは、現実的でないのは当然です。なぜなら、経営者の経験則には存在しない現象だからです。計画すら立てられないし、自然災害を計画に織り込むこと自体相応しくありません。

しかし、そういった自然災害がひとたび起きた時には、迅速にPDCAを回せるような準備をしておく事は必要です。

では、「迅速にPDCAを回せるような準備」とは何を指すのでしょうか。

それは、予測不能な自然災害が起きて自社の事業がストップしてしまった際に実施すべき「施策」を指します。

しかし、これだけでは施策を立てること自体不可能です。

なぜなら、予測不能な自然災害という以上、経営者の経験則には存在していませんし、経験則に存在していない以上、その影響など想像もつかないし、影響が想像できない以上、施策など立てようもないからです。

つまり、今回のような万人が経験したことのない台風や地震のような自然災害に対しては、経験しない限り備えることすらできないのです。しかし、備えなしの状態で経験してしまうと、その影響をそのまま受けて、企業活動は復旧困難な事態に追い込まれる可能性が高いと言えます。

であれば、どうするのか。

そのためには、実際に、日本のどこかで、もしくは地球上のどこかで起きた想像すらできないような未曽有の自然災害を疑似体験した上で、備えていくしかないのです。

つまり、被災した企業が、どういった領域(原材料調達、生産活動、出荷物流、社員の安全確保、ビジネスデータの保全、等々)でどのような被害を受けたのかについて知った上で、あたかも自社がその自然災害の被災者になったかのような想定を行うのです。これが疑似体験なのです。

まさに「壮大なPDCA」を余儀なくされるのです。

(不謹慎かも知れませんが、)他社が受けた被害状況を疑似体験の材料として使わせていただき、被害をできる限り小さく抑えるための施策を立てるのです。

人間は学習する生き物です。であれば、その特性をフル活用していくことが、企業を存続していく術ですし、企業に関わる人々の命を途絶えさせない術です。

あなたは経営者として、社員を、取引関係者を、地域を守るために、他で起きた自然災害にあたかも自社も巻き込まれたという想定で疑似体験し、早急に復活できるだけの施策を常に磨いていますか?