今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第62話] 業績に違和感を感じた時ほど社外に目を向けがち。しかし、順番が違う。

世の常とも言いますか、多くの中小企業経営者が自社の利益低迷に四苦八苦しています。

それはそうです。

外部環境は年を追うごとにそのスピードを増しながら激変するは、今まで縁もゆかりもなかった異業種の会社は資金力にモノを言わせて殴り込みをかけてくるは、挙句の果てには、目を賭けていた優秀な若手社員は他社に高待遇で引き抜かれていくは・・・。

経営者としては「何をどうしていけばいいのか分からない」という八方ふさがりの状態になってもおかしくはありません。

こういう時こそ、「基本に帰る」ことが最も大事です。

ただ、気を付けなければいけないのが、この「基本」の定義が人によってバラバラであるということです。

Aという経営者にとっての「基本」とは、たとえば、他社が思いつかないことを一つでも実行に移すこと、だとします。つまり、自社内ではなく、自社外にフォーカスして、ビジネスの活路を見出すという思考法です。

また、Bという経営者にとっての「基本」とは、たとえば、社内の業務の流れに滞りが起きていて、その滞りが実は顧客に対してマイナスの影響を与えていないか振り返りをすること、だとします。つまり、自社外ではなく、自社内にフォーカスして、ビジネスの活路を見出すという思考法です。

敢えて相反する内容を並べてみましたが、どちらが正しいとか間違っているとかはありません。

正しいか間違っているかは、外部、つまり、ビジネスにおいては顧客が決めることだからです。Aさんのやり方で上手くいく場合もあれば、上手くいかない場合もあります。Bさんの場合も同様です。要は、顧客が評価して結果が出れば、そのやり方が正しかったというだけなのです。

ただ、これで終わっては私がお伝えしたい事が入り口で終わってしまうので、さらに踏み込んだことをお伝えしていきます。

私が御指導させていただいているコンサルティングでは、「経営者は足元を疎かにした状態で、突っ走りしがちだという状況」を軌道修正していくことを趣旨としています。

車にたとえて言います。車を整備点検などまったくやらずに走らせていたら、まともに走ることなどできなくなります。自家用車であれば、一般公道を走行中いつ事故を起こすかも分からないですし、レーシングカーに至っては、レース中に大事故に繋がることも十分あり得ます。

なので、現状の業績に違和感がある場合は、先ずは社内の業務プロセスの中にその違和感の原因があるという前提で点検することが必要です。「他社に先んじて勝負に出る」のはその後です。

競合に先手を打たれたらどうするんだ、という意見も出てくるでしょう。しかし、社内の管理体制がボロボロだったとしたら、いくら勝負に出ても、その効果がどれだけ良かったのか悪かったのか、そして、会社の利益にどれだけ貢献したのかしなかったのか、等々、数値的な把握などできません。

それでは、マーケットにどれだけ戦略的な手を打てたとしても、それを評価する仕組みがなければ、上手くいったことを再現することは難しいですし、上手くいかなかったことをまた繰り返してしまう危険性も多々あります。

私がこのコラムで幾度となく紹介している「損益を商品別に把握すべき。しかも営業利益ベースで。」という経営課題も、この考え方に基づいています。営業利益ベースで、利益を稼いでいる商品と稼いでいない商品が峻別できれば、販売戦略も感覚的ではなく、極めてロジカルなものになっていきます。そうすれば、もちろん効果も期待できます。

また、売上高を増やすためには、売上高ではなく、売上高の原因となるプロセスに焦点を当てて、そこをコントロールすることに人手をかけることが必要です。売上が低迷している時こそ、売上高の原因プロセスの滞りを点検することが遠回りのようで実は近道であったりします。

このように、売上高一つとっても、「営業利益ベースで商品別損益を把握する仕組み」、「売上高の原因となるプロセスをコントロールしていくこと」の2点に企業の業績を押し上げるキャッシュポジション(つまり、利益の源泉)が存在しているのです。

そして、これらキャッシュポジションの強化に人手を割いていくことは、経営者がそのための経営判断を下さなければ、誰も手を付けようがないのです。

外に向けて目を凝らす前に、まずは内に対して目を向けましょう。