今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第65話] 「勘定合って銭足らず」の怖さ

「勘定合って銭足らず」、昔から商売の世界で言い古されてきたフレーズです。

昔ながらのフレーズにもかかわらず、今だに色褪せていないと感じる経営者は多くいらっしゃるのではないでしょうか?

意味については、経営者の皆さんであれば既にご存知と思いますが、平たく言えば、「利益は出ているが、その割には『なぜか』現金が足りない。」ということです。

気を付けなけばならないのは、この『なぜか』です。

失礼な言い方かも知れませんが、多くの経営者は、この『なぜか』を御存知ありません。感覚的には知っていても、数字に落とし込んだレベルでの肚落ちをしていないのです。

この「勘定合って銭足らず」が死語にならずに、いまだに認知されているということは、このフレーズが、ある意味で商売の本質を捉えているからではないでしょうか。

言い方を変えれば、「利益とお金をごちゃまぜに考えてしまうと、大変なことになるよ。この二つはまったくの別物だから。」そんな警鐘を鳴らしてくれているとも言えます。

厳しい言い方になりますが、この警鐘を、残念ながら多くの経営者が活かし切れていません。黒字倒産が今だになくならないというのも、その証左ではないでしょうか。

では、この「勘定合って銭足らず」の理屈はどういったものなのでしょうか?

かなりシンプルな説明をすると以下の通りです

ある企業が今期に獲得した利益が1,000万円だったとします。

この場合、この企業が今期に使っていいお金は1,000万円でしょうか?

違います。

翌期に入ると間もなく税金を納めなくてはならないので、その納税額を除いた分しか使えないのです。

仮に、税率を30%とすると、納税額は300万円になるので、この企業が今期に使えるお金は700万円ということになります。

しかし、実態はどうでしょうか?

700万円を念頭に置いたお金の使いみちを考えるでしょうか。

もし、番頭さんのような経理部長がいれば、社長にくぎを刺すはずです。

「社長、今期の利益が1,000万円だとしても、使えるお金は納税分を除いた700万円までです。しかも、もし翌期に幾らかでもお金を回したければ700万円よりも少ない金額しか使えません。」と。

しかし、こういった経理部長がいない企業の場合、社長がオールラウンドプレーヤー的に資金繰りの判断も掛け持ちでやっているケースも多々あります。

その場合は、こういったブレーキを誰も踏んでくれないので、利益の目一杯までお金を使ってしまう場合も十分あり得ます。

よく聞く言葉「税金がこんなにかかるとは思ってもいなかった。もうお金なんかないよ。」がそれを物語っています。

ちなみに言いますと、「売上が右肩上がりになればなるほど」、「仕入代金の支払サイトよりも売上代金の入金サイトが長くなればなるほど」、「期末在庫が多額になればなるほど」、利益に比べて使えるお金はどんどん少なくなっていきます。

つまり、「勘定合って銭足らず」の症状がひどくなっていくのです。

ここに気付かないまま、事業を進めていくことで、やがては黒字倒産に陥るという構図です。

これについての詳細な解説は敢えてしません。

なぜなら、先ほどお伝えした通り、経営者は本質を掴むことで十分だからです。

まずは、あなたの会社が黒字だった場合、「使っていいお金はどれだけか?」この点にフォーカスして、資金繰りに向き合っていただきたいと切に願っています。

あなたは、「勘定合って銭足らず」に陥らないように、常にアンテナを張っていますか?