今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第67話] 企業が金融機関を選別する時代が到来する。

先日、コンサルティングの現場で、クライアントの経営者からこんな質問を投げかられました。

「これからは有事の際でも融資が受けられるように、複数の金融機関との関係性を構築していこうと考えているのですが、あいにく当社のエリアでは地元密着型の信用金庫が二つしかなく、当社が付き合っている信金はそのうちの一つでこのエリアでは盤石の地位を確立しています。

もう一つの信金は低金利をうたい文句に比較的業績不振の法人顧客を集めている噂を聞きます。後は県下ナンバーワンの地銀の支店しかありません。

もちろん、当社規模ではその地銀とは不釣り合いなのでお付き合いするつもりはありません。」

有事の際に融資を受け易くするためには、「平時の今だからこそ複数の金融機関との関係性を構築する」ことの必要性を理解されているお考えは素晴らしいと思いましたし、「県下ナンバーワン地銀が自社のような中小企業をどこまで面倒見てくれるのか甚だ疑問だ」と考える冷静さも素晴らしいと感じた次第です。

さて問題は、複数付き合いたい金融機関そのものが会社の本拠地に存在しない場合です。

地方であればあるほど、そういったケースは多々あるでしょう。

必ずしも正解がある訳ではありませんが、今回のようなケースは、他方の信用金庫とも関係性だけは構築しておき、いつでも融資を受けやすい環境だけは作っておく努力はしておいた方がいいでしょう。実際に融資を申し込むかどうかはその時の状況次第です。

あとは、金融機関が融資判断をするために必要な資料を、いつでも提出できるような社内体制を作り上げておくことです。

言わずもがなですが、事業そのものを磨き上げて、強くしておくことは言うまでもありません。

金融機関の今後の融資判断基準の定番になっていくであろう事業性評価融資は、まさに事業の将来性そのものを見ていくわけですから。

さて、上記で紹介した経営者のような思考に至らず、金融機関との関係性構築の必要性など一切考える余裕がないというか、そういったアドバイスも受けたことのない中小企業経営者が大半だと思われます。

なぜなら、中小企業経営者にしてみれば、金融機関は融資する際に、融資先企業を一定の基準で評価して、融資の可否を判断していく相手です。

つまり、企業は金融機関から選別されるだけで、企業が金融機関を選別するという発想は全く出てきようがないのです。

しかしながら、意図するしないに関わらず、これからは、企業も金融機関を選別しなければならない時代がやって来る可能性が高いです。

というのは、この9月に金融庁が発表した「金融行政方針」によると、地域銀行(具体的には、地銀・第二地銀・埼玉りそな銀行)のここ3年間の業績は低迷しており、今後の雲行きが相当厳しいと推測できるからです。

概要を示すと以下の通りです。

『直近3ヶ年の決算の状況を見ると、2015 年度では106 行中40 行、2016 年度では106 行中54 行でそれぞれ本業利益が赤字となっていたが、昨年度では、地域銀行全体では役務取引等利益の増加によって本業利益率が下げ止まり、本業利益が赤字となっている銀行数は106 行中54 行と前年度比横ばいで推移している。

しかしながら、その内訳を見ると、2期以上の連続赤字となっている銀行数が年々増加しており、昨年度では106 行中52 行が連続赤字、うち23 行は5期以上の連続赤字となっている等、一旦、本業赤字となった銀行の多くで黒字転換できない状況が窺える。』

以上のように、本業利益が、地域銀行106行中、54行で赤字となっています。

本業利益が赤字になっている地域銀行の多くは、含み益がある公社債等の売却でカバーしてきたのですが、この含み益もだんだんと低減しており、今のままのビジネスモデルでは、長期的に見ると事業が継続できないようになっています。

このことから、ビジネスモデルの転換ができない金融機関は、淘汰される(他の金融機関に吸収される)結果になるのではないかと言われています。

今までもこのコラムでお伝えしてきましたが、金融機関は企業にとって「融資を申し入れる相手」にとどまらず、企業の財務面を司る重要なビジネスパートナー、という発想の転換が求められる時代が目の前に来ています。

ということは、どのような金融機関をビジネスパートナーに組み込むかで、企業成長は左右され、企業存続も影響を受けるということなのです。

参考までに、淘汰されていく可能性のある金融機関を見極めていく判断基準の一例を以下に記載します。

  • 低金利競争に巻き込まれて、平均貸出金利が大幅に低減している
  • 本業利益の赤字を補填するため、保有債券を積極的に売却している
  • 本業利益に関する経営計画が未達成になっている
  • 繰延税金資産の取崩しや減損処理等、損失が発生している
  • 決算書と担保・保証人でしか融資判断ができない(目利き力がない)
  • 本業利益の赤字が続いているのにも関わらず、当期純利益の黒字が続いている
  • 本業利益が赤字にもかかわらず、今までと同じ融資姿勢のままである
  • 拡大志向(取引先をどんどん増やそうとしている)
  • 担当者が無理に、投資信託や保険、国債等を販売しようとしている

 

上記は、各金融機関のディスクロージャー誌を2期分比較し、調べることや、金融機関の担当者と話をすることで、大体のことを知ることができます。

今後は、「企業自らが金融機関を選別していくべき時代だ」との方向に発想を転換して、金融機関の目利き力を磨いていかれることを願っています。