聞く側としては耳を疑うようなことが、途切れることなく起きています。
具体的には、「組織ぐるみでの不正」です。
全て挙げようとしたらキリがない(このこと自体、頭を抱えたくなりますが)ので、一つだけ挙げます。
それは、高層ビルやマンションが大きな地震に見舞われた際に被害を出来る限り食い止めるための「免振・制振ダンパー」の検査データ改ざんです。
僅か2社が国内シェア9割を占めているという異常な独占状態で、なんと、この独占2社とも、15年前から改ざんを常態化していたとのこと。
納得など到底できないレベルです。
報道からの情報しか把握していないので真相は不明ですが、改ざん理由は「納期厳守」とのことです。
こちらについても、到底納得できないレベルです。
彼らは、検査データで国の基準値を下回る数値が出た場合の「納期遅れ」の食い止め、そして納期遅れに付随して生じる「追加コスト」の食い止めに注力していたとのこと。
このあたりがメーカー側にとっての改ざんの動機付けだったという報道がなされています。
真実は今後の調査結果を待つしかありませんが、この挙句の影響として、新築物件に関しては、ダンパーの供給ストップによる建築作業の事実上のストップ。
「納期遅れ」の食い止めどころの騒ぎではありません。
既存の物件については、オフィスビルやマンションに関わらず、懸念されている不良ダンパー交換の見通しが立てられない状況下での、現利用者の不安・不満・怒りの増幅。
「追加コスト」の食い止めどころの騒ぎではありません。
彼らは、一体どこにその目線を向けて仕事をしてきたのでしょうか?
納期遅れを回避したい。
そして、納期遅れに付随する追加コストを回避したい。
どこを向いてきたのか?
自分の会社でしょうか?
取引先でしょうか?
エンドユーザーでしょうか?
誰が考えても、火を見るよりも明らかです。
今回の一連の改ざんは、目線がすべて自社にしか向いていないことが、すべての元凶ではないでしょうか。
通常の進捗状況から僅かでも遅れそうな場合の影響を、嘘をついてでも食い止めたい。
言われているような納期遅れの回避でしょうか?
納期遅れは当然あり得ます。それを食い止めたいという発想が今回の悪質な改ざんの動機付けになるでしょうか?
「納期厳守」は今回のダンパーメーカーに限らず、すべての業種で当たり前のように守るべきビジネスルールです。海外には、納期厳守など気にも留めないのんびりした国もあるそうです。それはそれで置いておくとして、こと日本では通用しません。
余裕のないギリギリのペースでやっていれば、ひとたび検査でNGが出たら納期に間に合わなくなる。そんなことは小学生でも分かります。
であれば、検査でNGが出ることを当然のリスクと位置付けて、やり直しが出ても納期遅れが生じないような製造スケジュールを予め作っておくことは基本中の基本ではないでしょうか?
であれば、納期遅れに付随して生ずる追加コストの回避が、彼らの経営課題になっていた可能性が高いと言えます。
「追加コストは何が何でも回避しなければならない」。そんな非常識が、社内では常識になっていなかったとも限りません。
もし、そうであれば、彼らが守ろうとしていたのは、ただ一つ。
自分の会社のみです。
免振・制振ダンパーといえば、それが設置されている建築物を利用する会社の社員、もしくは住民の命に直接かかわる製品です。
であれば、メーカーとしてのあり方(つまり、理念)は、エンドユーザーの命を可能な限り守り抜くことではないでしょうか?
そのための品質検査であり、そこでNGが出れば、その対応に人手もコストもかけることは当然です。
エンドユーザー目線を欠落させ、かつ、自社を守ることに汲々としていたのだとしたら、論外としか言えません。
結果的には、当該メーカーは自社を守るどころか、その真逆の窮地に陥っています。
「守ること」が守ることにはならないのです。
文字通り、自分で自分の首を絞めているだけです。
ここで、より抽象度を上げて考えますと、業種問わず、企業はエンドユーザーがその商品サービスにお金を払ってくれるからこそ、収益を上げて、ビジネスを継続していくことが可能となるのです。
そのエンドユーザーを蔑ろ(ないがしろ)にしている企業は、いずれ市場のしっぺ返しを様々な形で受けます。これまでの数え切れないほどの企業不祥事を振り返るとお分かりかと思います。
その市場原理をよく分かっている経営者は、エンドユーザーを決して蔑ろにはしません。むしろ、エンドユーザーを守るために、手間やコストを厭いません。
しかも、ビジネス全体としては、しっかりと正当な利益を稼いで、企業としての発展成長を怠りなく進めていきます。
つまり、渋沢栄一が唱えた「論語と算盤」の世界観です。
「論語」と「算盤」は、まさに対極にある概念ですが、俯瞰力のある経営者は自己の精神のバランスを図りながら、この対極にある概念の高みを目指して、日々の経営に向き合っています。
中小企業経営者の皆さんも、そうあっていただきたいと切に願っています。