今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第74話] 「ガラス張りの経営」を謳っていても、実は「曇りガラスの経営」に陥っていませんか?

日常的に使われる「ガラス張りの経営」というフレーズは、企業経営に関するポジティブなイメージが張り付いているフレーズとも言えます。

その意味するところは、平たく言うならば、その会社の現時点での業績、将来進もうとしている方向性、および、経営者がどのような事を目指しているのか等々が、社内に共有化されているような状態でしょうか。

その目的は(これも言い古されてきた感が強いのですが)、経営者と社員との間の溝をなくし、会社全体を一枚岩にしていくためです。

しかし、この「ガラス張りの経営」ですが、いろいろなやり方をお見受けします。

最もしっくりくるやり方は、経営者が考えている会社の方向性やビジョン的なストーリーを、日常的に社員に言って聞かせ、かつ、会社の業績内容もオープンにするようなケース。

この場合、社員にしてみれば、「経営者の思考」という抽象度の高い内容と、「会社の業績」という臨場感の高い内容、といった対極的な情報が合わせて濃密に伝えられるので、会社に対して、これ以上ないレベルで一体感を持つことができます。

つまり、「ガラス張りの経営」が目指すところの、一枚岩に近づいていく土台が出来上がっていく訳です。

これに対して、「ガラス張りの経営」もどきのケース、言い方を変えると「曇りガラスの経営」に陥っているケースも時折り見受けます。

それは、経営者がことある毎に自身の思いを社員に熱く語るものの、会社の業績については、最終利益まで見せることをしないで、粗利益まで、極端な場合は売上高までしか見せていないようなケースです。

業績を部分的にしか見せないことも一つの経営手法ですから、それを否定はしません。

しかし、このような会社の社員にしてみれば、どう受け取るでしょうか?

「ウチの社長の熱い思いはよく分かる。しかし、自分たちはどのように動いていけば、具体的にどういった利益貢献ができるのか分からない。給料だってどれだけ上がるか分からない。」

こうなるのではないでしょうか?

熱い思いを伝えて、社員の心に火をつけることは素晴らしいことです。

それに加えて、会社の業績をオープンにすれば、数値としての「利益貢献目標」が明確になるので、社員の本気度はガソリンが注がれたようにより強固になるのではないでしょうか。

業績をオープンにすることに対する賛否はもちろんあります。

オープンにする。オープンにしない。

どちらが正しくて、どちらが誤っているという事はありません。

どちらもアリで、それは経営者が決めることです。

その際に、経営者として常に吟味検討していただきたいことは、「このやり方で、社員の本気度に火を付けることができるのだろうか」という点です。

社員の本気度に真に火を付けるには、会社業績をオープンにするだけにとどまらず、さらに深掘りしていきます。

「売上がXXX円伸びたら利益がXXX円増えて、人件費原資はXXX円増える」

「粗利率をXX%上げたら利益がXXX円増えて、人件費原資はXXX円増える」

「経費の無駄遣いをXXX円減らしたら利益がXXX円増えて、人件費原資はXXX円増える」

などといった、社員の頑張りが利益をどれだけ増やし、その結果、彼らの給料がどれだけ増えるのか、具体的に共有化することが重要になってきます。

これにより、社員の本気度に火が付くのです。

経営者の役割として、熱い思いを語り続けることもとても重要です。

しかし、それだけにとどまらず、具体的な業績を経営陣だけの独占にせずに、社員とも共有し、具体的な利益貢献目標を明確に持たせる。

これがとても重要です。

いわば、車の両輪のようなものです。

どのような経営スタイルを持つかは、経営者の選択ですが、社員の本気度に火を付け続けることに、留意していただくことを願って止みません。