今週のコラム 「『盤石の財務基盤』を次世代へと繋ぐ」 [第76話] 社員の適材適所を見つけようとしているつもりが、実は決めつけになる場合がある。それは会社の成長鈍化に繋がる。

もう師走の12月に入ったのか、と思っていたら、残すところあと1週間。早いものです。

経営者の皆さんが時の早さを実感しているのはもちろんですが、この時期は特に大学受験生が、「光陰矢の如し」を嫌というほど味わっているのではないでしょうか。

その大学受験生を、精神的に振り回している事件が世間の耳目を集めています。

ご存知と思いますが、数多くの有名大学で行われていた医学部不正入試の問題です。

(実はこれ、後でお伝えしていきますが、企業経営にも通じる案件でもあります。)

具体的には、「女子と2浪以上の受験生に不利な扱いをしていた」とか、「補欠者のうち同窓生の子弟を優先的に合格させていた」といった到底理解し得ない内容ばかりです。

これに対して、渦中の大学側は、「女性は妊娠や出産というライフイベントがあるから」とか、「女性医師を増やすと医療崩壊の危険があるから」とか、弁明しています。

彼らの弁明を少し俯瞰して見ると、「優秀でやる気のある女医さんの卵」を強制的に排除する流れを作っている、という気がしてなりません。

「長年かかったとしても医師になりたいんだという熱意を持った医師の卵」を強制的に排除する流れを作っている、いう気がしてなりません。

それはすなわち、医療分野の将来の芽を自ら摘み取っている、そして、医療サービスのエンドユーザーである患者さんのためにならない環境を自ら作っている、という気がしてなりません。

彼らがもし良かれと思って今回のような判断をしていたとするならば、それは極めて狭い思考力、もしくは低い思考力の枠内での判断としてしか解釈しようがありません。

今回のコラムでお伝えしたいのは、こういった大学の意思決定権限者のおエライさんたちと同じような思考レベルが、もし一般企業に蔓延しているとしたら、それはどういうことになるのか、ということです。

さて、そもそも企業というものは、その企業が動くために必要な諸々の機能を備えています。

そして、経営者が組織を組み立てる場合、企業を動かすために必要な諸々の機能を、社員に対して割り当てます。いわゆる人材配置というものです。

営業が向いていると判断した社員は営業担当に、経理財務が向いていると判断した社員は経理財務担当に、といった具合です。

その場合、例えば(あくまでも例えばの話ですが)、ある女性社員が経営企画部を希望したとします。経営企画部といえば、一般的にはその企業の経営の中枢に関わる部署です。

その経営企画部への配属を希望している女性社員に対して、経営者が次のような判断をしたとします。

・この社員は女性だから、いずれは結婚して出産して退職する“だろう”。

・いうことは、当社に長期的に勤務することはない“だろう”。

・であれば、経営の舵取りに関わる経営企画部に配属することは適当ではない“だろう”。

・であれば、結婚退職しても差し障りのない部署に配属させることが、当社にとって望ましいこと“だろう”。

この思考の流れはあくまでもイメージを持ってもらうための創作ですが、この場合の経営者の思考レベルは、会社にとっての「良かれと思っての思考レベル」なのです。

しかし、思考レベル的には、冒頭に紹介した医学部不正入試問題において答弁した、大学側の責任者の狭小な思考レベルと何ら変わりはありません。

経営者は確かにその業界に関しては、当の社員よりは何年も先輩です。経験もあります。判断力もあるでしょう。

しかし、その経験や判断力にしても、「本人が関わってきた限られた環境の中で培われた経験や判断力」に過ぎません。

その限られた経験や判断力は、当の社員の可能性を決め付けられるほど次元の高いものなのでしょうか?

俗な言い方ですが、人間の可能性は無限です。

でも、これはある意味、名言です。

経営者の経験や判断力が無価値とは言いませんが、かと言って、万能ではありません。

社員の可能性は、彼らの予測など到底及ばないレベルにあると想定しておいた方が妥当でしょう。

社員は上司が育てたとおりに育ちます。

経営者が「こいつはとてもダメだ」と思いながら育てたとしたら、その社員はダメに育ちます。

まだまだ合格点をあげられないレベルだとしても、「こいつは最高だ」と思いながら育てたとしたら、その社員は最高に育ちます。

最高の人財に育つ可能性を持った社員を、経営者が限られた思考の枠内で評価を下す。これが積もり積もれば、最高の可能性に蓋をすることになり、やがては組織の成長も頭打ちになってしまう。

要は、上に立つ人は、自分の限られた経験にしか裏打ちされていない思考力の枠内で、社員の能力を決め付けることなく、「こいつは最高だ」と信じてみることが必要ではないでしょうか。

そのような思考レベルがあれば、冒頭に紹介した、医学部上層部が発したおよそ信じがたいようなコメントなど、出てくる余地はなくなるでしょう。

経営者の皆さんが、会社が将来進むべき方向に照らし合わせて、社員を評価する場面は多いと思います。

その際に、あなたの思考の枠は限られたものでしかないことを認識し、同時に社員の可能性は、あなたの予測をはるかに超えたものであると認識していただくことを期待しています。

社員は経営者が育てたようにしか育たないのです。

「ダメだ」と思って育てれば、ダメに育ちます。

「最高だ」と信じて育てれば、最高に育ちます。

このことを念頭に置いていただくことを切に願っています。